葉鍵的 SS コンペスレ 19
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葉鍵的 SS コンペスレ 18
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1186409866 悲喜こもごものバレンタイン。
その前半戦を終え、勝ち組と負け組が明らかになった教室内に激震が走った。
『あの里村が本命チョコを準備している』
証言者は南。なんでもいつ自分にくれるのかと茜を見ているうちに気がついたそうだ。
鞄の隙間から見ただけだが、箱の大きさ、ラッピングの気合の入れようから考えて、本命チョコなのは確実だと周囲の者に語っている。
引き続き妄想を語る南を尻目に、辺りにいた男子は考える。
情報の信憑性は高い。あの南が里村のことで間違えるはずがない。
となると誰に渡すのか?
「このクラスの男子かもしれないよ?」
急に聞こえた少女の声に、慌てふためく男性陣。
「こんにちはっ。茜のチョコのことだよね?」
騒いでいた男子はお互いを肘で突付きあっていたが、目を輝かせる詩子に諦めたように頷いた。
ちなみに南はまだ妄想を語っている。今三人目の子供が七五三を迎えた所だ。
「そんなに気になるなら、聞いてきてあげよっか?」
マジですか?言葉は出ずともそれ以上に雄弁な表情の男たち。
詩子はそれをなだめるように手を振ると、その指をわっかの形にして微笑んだ。 「あっかね〜、元気だった?」
「…詩子はいつも元気ですね」
「そう褒められると照れちゃうな〜。あそうだ、これ、バレンタインのチョコレート」
「…チョコバットですか。ありがとうございます」
「すっごい素の反応だね〜。本当はこっち、詩子さん特性チョコエッグだよっ」
「…相変わらず無駄に凝っていますね。ありがとうございます」
「中を開けたら二度ビックリだよっ。…ところで茜は?」
「…チョコは自分から催促するものではありません」
「そう言いながらも作ってきてくれてる茜はいい人だねっ。わ、ガトーショコラ?」
「はい。詩子が以前あまり甘いものは苦手だと言っていたのを思い出して…」
「うん、これ大好き。茜、ありがとっ」
「い、いえ。前から作ってみたかっただけだから…」
この様子を見ていた男性陣。焦れていたのかといえば、そうでもない。
ニヤニヤと相好を緩めるものがほとんどで、中には「百合だ、百合」と息を荒げる猛者もいた。
もっとも、娘の結婚式のスピーチに突入した南に敵う者はいなかったが。
「ところで茜、これ以外にもチョコレートを持ってきてるんだよねっ」
「…はい」
「それって本命チョコなの?」
ストレートな詩子の一言に、辺りの空気が一変した。 「……はい」
ざわっ
「もしかしてこの学校のひと?」
「……はい」
ざわっざわっ
「ひょっとしてこのクラスのひと?」
「……はい」
ざわっざわっざわっ
もはや騒ぎは男子だけにとどまらず、クラス全体へと波及していた。
聞いた詩子もそこまでの答えを予想していなかったのだろう。
いつになく緊張した面持ちで後を続けた。
「じゃあこの中に、いる?」
「……秘密です」 一斉に溜め息がひびく教室内。
しかしなまじ名前を伏せたせいか、それまでにない熱を込めた視線が茜に送られた。
それを受けてなお表情を変えない里村茜。
まさに難攻不落。学園が誇る小田原嬢、ここに健在である。
一方、その中で詩子だけが、最後の一言にこめられた気持ちの揺れを感じ取っていた。
(怒り? 苛立ち? ううん、違う。あれは…悲しみ?)
詩子が帰り、授業が終わり、皆の期待を背に教室を出る茜。
街はバレンタインムード一色。
あちらで指を絡めているのは今日生まれたばかりのカップルだろうか。
その中を無表情に、しかしいつもより若干早足で歩いていく茜。
家に帰りつくなり階段を上がり、自室の扉を開けて即ベッドに倒れこんだ。
「浩平、遅刻です。ワッフルだけでは許してあげません…」
後に続くは嗚咽。
孤独の城の中、ベッドの軋む音だけがいつまでも鳴り響いていた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています