翌日の昼過ぎだったと思います。
口、顔、髪の毛は糞だらけ、何度もお風呂に入って綺麗に洗いオスバンで消毒しましたが、臭いがとれないのです。
口や鼻の回りに付いた臭いで、自分でも臭いほどでした。
口や顔の周りの臭いは、1週間で消えました。
しかし、頭皮に糞の臭いが染み込みました。
一番こまったことは、肺や胃の中から糞の臭いが逆流してくることでした。
食事をするたびに、飲み込んだもので押しのけられた名雪便の匂いが食道から喉、口内、鼻へとこみあげてきます。
そして食べ物の匂いとまざるのです。
これでは、何を食べても糞便味に感じられてしまいます。
また、呼吸をするたびに肺の中から匂いが出てくるのはまだ消えません。
肺には便を消化したり吸収したり腸へ流して排泄する機能はありませんから、この匂いは一生消えないかもしれません。
走ったり階段を降りると胸のあたりで肺に溜まった名雪便が暴れるのがわかりますし、タプンタプンと液体の揺れる音がします。
私が呼吸をするだけで呼気とともに名雪便の匂いがすこしづつ拡がり部屋中がまるでにおいのきつい口臭トイレ、いえ公衆トイレの中のように便臭でいっぱいになるのです。
ましてや、しゃべったりするとまるでゴジラの放射能のように周囲数メートルがあっという間に汚染地域になります。
この前はくしゃみとともに糞便が飛びだし、近くの席の女子に大量に吹きつけられました。
それと、顔にブツブツが出てきました。
学校では教師やPTAでもやり玉にあげられ北川や香里から私のせいだと罵声を浴びさせられました。
舞からも「祐一臭い」と一言いわれ、佐祐理さんもランチの場所を変えたのか私の前から消えました。
小学生からも石を投げつけられ、バスには乗車拒否をされ、近所の主婦からはヒソヒソと指をさして噂される日々。
そんなことが続き、もう学校には行けなくなったある日、あゆからこれ、祐一にお似合いだよ。と満面の笑みで差し出されたもの。
魚の鯛を型どり、今もなおホカホカと湯気を上げる香ばしい皮につつまれたその物体、たいやき。
あゆから差し出されたたいやきにかぶりつくと、中からあの懐かしい名雪便がしっぽまでたっぷりと詰まって、いまだに湯気をたてていました。
了