お〜い、誰かyet11の行方を知らんか? Part3
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
175 名前:6話[sage] 投稿日:2005/12/01(木) 02:20:08 ID:SB5+o4y40
ひとしきり泣いた。
目が潤む事はあっても、泣いた事などここ数年は記憶になかったが、
子供のように泣きじゃくった。
目から涙が溢れ、口から嗚咽が止まらない。
20後半の男が泣くな、と心の中の残った理性が忠告するが、
それでも止まらない。
鼻水まで出てきた。
汚い。拭かなくては。
ちゃぷ台の上のティッシュで間に合わせよう。
吉沢さんにきったねえ泣き顔見られるのは恥ずかしいが、仕方ない。
ティッシュを何枚か重ねて取った。
ティッシュではなく、ハンカチだった。
ああ、相変わらずセンス悪いハンカチだなあ。
「思いっきり、泣いちまえ」
ああ、ずりいなあ。
また、涙が止まらなくなっちまった。 176 名前:6話[sage] 投稿日:2005/12/01(木) 02:20:31 ID:SB5+o4y40
「お前が俺の前で泣くのは二回目だな」
ようやく僕が落ち着いたところで、吉沢さんが話しかけてきた。
「……いつでしたっけ」
「おいおい。お前らが俺を置いて退社した日だよ」
その一言で記憶が甦った。
最後のお別れの挨拶をした時だった。
麻枝以外の全員はTactics最終日に吉沢さんに個別に挨拶をしにいったが、
最後に挨拶した僕が感情を爆発させて泣いたのだった。
「あの日さ、俺も夜中泣いたんだぜ」
「え、本当ですか!」
Tactics時代の吉沢さんからは考えられない行為だ。
「お前なあ。スタッフの内、自分以外の6人全員が他社に引き抜かれる上司の身になってみ?
しかも原因は吉沢とか言われてよ。そりゃあ泣きたくもなる」
にこやかに吉沢さんは語る。
昔のこの人だったら本当だろうと冗談だろうと、こんな自分の弱点を曝け出すような話はしなかっただろう。
時間が経った事を感じてしまった。
「もし、当時のお前らが知っていれば、“吉沢が泣いた”なんて気分が良かったんじゃないか?」
「…いえ。女連中が嫌っていたのは闇将軍です。吉沢さんを特別嫌ってたわけじゃなかったですし、
むしろ聞けば罪悪感に悩まされたのでは」
この人は特に仕事上で男女差別をしてはいなかったが、どうも女には好かれる傾向があった。
「ふむ。それは知らなかったな。折戸の野郎はどうだ?」
「折戸さんは……冗談で馬鹿にするかもしれませんが、本心では痛んでいるじゃないでしょうか」
心底以外そうな顔をする吉沢さん。
驚きの余り、ギターを軽く鳴らす。
「アイツが一番喜びそうな気がするけどな……」
「いや、だって、お二人は友達だったじゃないですか」
「友達、か」
初めて聞く、切なくて苦しそうな声に気づき、思わずこっちの方が押し黙ってしまった。 177 名前:6話[sage] 投稿日:2005/12/01(木) 02:20:53 ID:SB5+o4y40
「ところで、だな」
話は方向転換されてしまった。
僕と麻枝について聞かなかったのは、聞くのが怖かったのか、
僕を気遣っての事なのか。
だぶん後者だと思う。今の吉沢さんの様子からだと、なんとなくそんな気がする。
「最初の質問に戻るぞ。久弥、今つらいか?」
今度は泣きはしなかったが、即答も出来なかった。
「つらかったら、俺んとこくるか? エロゲーどころかオタクとは何の関わりも無い仕事だが、
お前一人くらいなら食わしてやれるぞ」
嬉しかった。
そんな申し出をしてくれる人が自分にいたなんて、それだけで心に染みた。
「まあ、俺はすき焼き雑炊作るから、考えてくれ」
そう言いながら、冷蔵庫で冷やしていたご飯を、鍋の中にぶち込む。
答えを探す。
自分のために、吉沢さんのために。
気づけば僕は、keyをやめた後に起こった、ある出来事を思い出していた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています