お〜い、誰かyet11の行方を知らんか? Part3
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182 名前:7話[sage] 投稿日:2005/12/02(金) 01:46:54 ID:z+2Apg2g0
━━━ あれはSNOWの開発の終わり頃だったと思う。
「……ん」
おいしそうな匂いで目を覚ました。
どうやら机にうつ伏せになって寝ていたらしい。
押し付けられていたおでこと腕が痺れているのが何よりの証拠だろう。
「あ、起こしちゃいましたか」
僕の起きた声に気付いたのか、向かい側の机から声をかけられた。
VAはどのブランドも机ごとに敷居で完全に見えない状態になっているので、
例え隣の机だろうと、人の姿形は確認できない。
壁を見ている内にまた声が聞こえてきた。
「だいぶ、お疲れのようで」
「……ええ。深夜残業してて午前二時頃終ったんですが……そのまま寝てしまったみたいですね。
今何時だかわかりますか?」
「えーと三時半です」
一時間半程寝てしまったわけか。
まあ、どうせ終電も逃してしまったので泊まりは確定だったから、
悔やむ程じゃないだろう。
「久弥さん。ですよね」
「あ、知ってましたか」
「そりゃあもう。この業界で久弥さん知らないとなると完全なモグリですよ」
おいおいそれは過大評価だろう。
Kanon時代ならともかく…… 183 名前:7話[sage] 投稿日:2005/12/02(金) 01:47:30 ID:z+2Apg2g0
「……えーと、そちらは」
「ああ、急なヘルプでちょっと頼まれましてね。
やる仕事は本業じゃないんですが、スタッフロールに名前が載るとの事で引き受けましたよ」
仕事の内容じゃなくて名前を聞きたかったんだがなあ。
気を取り直して、違う話題を提供する。
「では、本業というのは……」
「シナリオです」
彼は何の迷いも無しに即答した。
「ただ、昔ポカやらかしちゃいまして、しばらく作品は書いてませんけどね」
僕はこういう台詞に気のきいた言葉を返せない未成熟な人間なので、
「ああ……それは、つらかったでしょう」
と、上辺だけの台詞を言って誤魔化すしかなかった。
「まあ。色々と叩かれましたしね。私、ネット上では殺されたり、
作品と共にゴミ捨て場に捨てられたりしてましたよ。自業自得なんですが」
それを聞いて嫌な気持ちが生まれる。
その時、僕自身も業界のユーザーに対して、辟易としていたからだ。
叩く時は人権も無視してぼろ糞のように扱うくせに、
購入自体はコピーや共有ファイルで一銭も払わない奴らのなんと多い事か。
この職業は、これからも続けていく程、価値がある業界なのか。
日に日にその疑問は大きくなっていった。
「でも……」
「はい?」
唐突に声のトーンが下がっていった。
「一番辛かったのは自分の作ったキャラや、そのキャラが好きだった人まで攻撃された時ですね……」 184 名前:7話[sage] 投稿日:2005/12/02(金) 01:47:51 ID:z+2Apg2g0
「……」
「……」
沈黙が続いた。
その言葉は同じシナリオである僕にも痛い程通じた。
「……この仕事、やめようとは思わなかったんですか?」
初対面(つーか初声面)の人にここまで突っ込んだ内容を聞くのはどうかと思ったが、
当時の僕は止める事は出来なかった。
「う〜ん。色々有りましたし、考えもしましたけど」
「けど?」
「…でも。でもね……やっぱり好きなんですよ」
「……はは」
「ははは」
「あっははははは! そうです、なんだかんだ言っても好きなんですよね!!」
「救えないですね!!」
二人とも深夜四時の社内で大声で笑い合った。
あらかた笑った後、唐突に眠気が襲ってきた。
「すいません、ちょっと眠気が」
「あ、いいですよ。起こしてすいませんでした」
「そう言えば気になってたんですが、その匂いの元なんですか?」
「ああ、カップラーメンですよ、夜食に……って伸びてる!!??」
笑いながら、意識は闇に落ちていった。
明日、もう少し親しくなろうと思いながら。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています