お〜い、誰かyet11の行方を知らんか? Part3
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302 名前:8話[sage] 投稿日:2006/05/08(月) 00:39:19 ID:tE9gVjzA0
夜。
準急は停まるが快速は停まらない微妙な駅のロータリーに俺はいた。
きったねえ地図に書かれてあった指定どおりにギター持参で。
「つか、さむっ!」
もう暦の上では完全に春になったと思ったのに、夜になると急激に冷え込みやがった。
やってらんないとばかりに自販機で缶コーヒーを購入する。
うーむ。やっぱり男はポッカコーヒーだ。
この缶のワイルドな男のイラストに頬ずりするだけで、俺の心は安らいでしまう。
「何してんねん」
横から総会帰りのヤクザ……ではなくて下川がいた。
しかも何故かベース持参。
「お前こそ。社長業に疲れて夜逃げか?」
心底疲れたという顔で、下川はポケットからきったねえ地図を出す。
「なんかようわからんけどな。変な姉ちゃんにここに来いと言われたわ」
「……それ貸して貰ってもいいか」
「ほれ」
下川から投げられた地図を受け取ると、破くかの勢いの如く地図を広げる。
ふむ。このお日様に顔を書く手法はあいつしかいない。
「お前、他に何か知らないか?」
首を振る下川。
だぶん、本当に何も知らされてはいないのだろう。
……あいつ、何するつもりだ?
二人して途方にくれ、しょうがないので世間話でも始める。
「……これって昔にゲーセンでバイトして買ったベースか」
「ん。まだ生きとってくれたみたいやな」
「生きてるって言えば、あのゲーセンはまだやってんのか?」
「もう死んだみたいや。当時から主な客層がくたびれたリーマンやったからな」
「へー。高校の時にこれ買ったって事は、だいぶ苦労したでしょうに」 303 名前:8話[sage] 投稿日:2006/05/08(月) 00:40:25 ID:tE9gVjzA0
あまりにも自然だったので、気付くのに時間がかかったが、第三者の声が混じった事に気付いた。
「吉沢さん?」
「あ、お久しぶりです」
「いえ! こちらこそ」
俺より先に標準弁モードに戻った下川が返事をしてしまった。
「え、お前ら知り合い?」
その答えに二人は顔を見合わせて
「ははは」
と言うだけだった。
なんだこいつら……
天を仰いだその時だった。
「お久しぶりでしゅ」
聞いてはいけない声を聞いてしまったような気がする。
これは夢だ。間違いない。そんな事あるわけない。
「お久しぶりでしゅ」
逃げよう。ここでは無いどこかへ。
そうだ。終点近くの温泉へ静養だ。
しかし進まない。何故だ。神は俺に死ねと言っているのか。
そうか。手を握られているから進まないのだ。
「ぐへへへへへへ」
俺。こいつ苦手。 329 名前:9話[sage] 投稿日:2006/06/02(金) 00:52:49 ID:0AqeUdMW0
ジューンブライドは欧米の仕掛けた罠に違いない。
六月なんかに結婚式やったら、折角の白無垢やウエディングドレスが汗でべとつき、
最悪の思い出になってしまう。
出だしが最悪だから、結婚生活も最悪。
離婚や育児放棄、子供を作らないといった方へ向かってしまう。
かくてこの国は離婚率は増加し、出生率は低下しているのだとさ。
「しのさんはお疲れ気味」
いたるが話しかけてきたので仕事場での妄想終了。
ついでに私の仕事サボりタイムも終了です。
「そりゃ、いたるから見れば、私は元気ないかもねー」
彼女と同僚になってから長いが、かなりタフである事は十分に思い知らされている。
もし私達の中で仕事耐久レースをやったら、一位は麻枝くんかいたるのどちらかだろうなあ。
「そいで、何? トラブルでもあった?」
彼女は軽く首を横に振り、一枚の券を差し出した。
「仕事終ったらスタバに行きませんか? タダ券があるんです」
スタバ。
ラテ(最近はバナナラテがお勧め)
カプチーノ(絶品)
ハム&チーズ(これが本当に美味しいのはハムでもチーズでもなく、パンだと思う)
「いこっか」
「あれ。しのさんはお疲れ気味では」
「ふふふ。女とグラフィッカーはスタバに勝てないのは定説だよ、いたるくん?」 330 名前:9話[sage] 投稿日:2006/06/02(金) 00:54:25 ID:0AqeUdMW0
あんにゃろう。
確かにスタバは好きだけど、一人でいくのはちとつらいのだよ、いたるくん。
右隣では受験生の男の子が必死にチャート式を解き、左隣では二十歳前後のOLが必死に資格試験の参考書を解いている。
燃えてるなあ。とお姉さんは思ってしまう。
私にも上手くなりたい……というかいたるの絵をカバーするために必死で色付けの勉強をした事もあった。
“業界一のグラフィックがいたる絵をカバーしている”
と評された時は憤慨したけど……でも嬉しかったんです。
ええ、だって女ですもの。ごめんよ、いたるくん。
でも、その情熱も今ではからっきし。疲れまくりの毎日。
いわゆる惰性モード入ってます。
ああ、真向かいのカップルが「どうして怒るの!」「怒ってねえよ!」と喧嘩してるも活気があって羨ましい。
両隣の受験生が睨みつけているのも羨ましい。
まあ結論はラテは美味しいという事なのだろう。
店内のBGMの聞いた事のある音楽に変わっていく。
ああ……これは、鳥の詩……
鳥の詩ぁ!? スタバで!?
……違う、外からだ。
慌ててガラス越しに外を見てみる。
ああ、どうやらストリートミュージシャンが歌ってるらしい。
……元同僚と、上司と、知らんおっさんが。
スタバの中で思わず大声で笑ってしまう。
喧嘩中のカップルも両サイドの受験生も怪訝な顔して、こっちを見ている。
でも、そんな目線も気にならなかった。
みきぽん、ヨッシー。
やっぱり、あなたたちがいないと寂しいよ。 だったような気がする(久弥編) 上司たるもの(折戸編?)
第1話 >>3-5 第1話 >>53
第2話 >>8-11 第2話 >>55-59
第3話 >>13-15 第3話 >>60-62
第4話 >>19-21 第4話 >>63-64
第5話 >>24-27 第5話 >>65-66
第6話 >>30-32 第6話 >>68-69
第7話 >>34-36 第7話 >>70-71
第8話 >>39-40 第8話 >>72-73
第9話 >>42-45 第9話 >>74-75
あとがき >>46 343 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:45:24 ID:SJwllKEa0
昔の話。
あまり楽しい話じゃない。
久弥が泣きながら吉沢と一緒に会議室から出てきた。
麻枝は泣いたのは何回が見たが、こいつが泣くのは始めてだ。
目は三徹した時よりも真っ赤で、滝のように涙が出ている。
そして、鼻からは洪水のように鼻水が垂れ流されている。
倒れるように机に突っ伏して、嗚咽を流し続ける。
その姿を見て、俺と女子陣は苦痛な表情を浮かべる事しか出来なかった。
その間、吉沢はただ天井を見上げていた。 343 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:45:24 ID:SJwllKEa0
それから嗚咽は10分後にピークを迎え、30分後には沈静化した。
久弥がようやく、その涙で別人のようになった顔を正面にに向けられるようになったところで、
吉沢が声を発した。
「今日の内に私物は処分してくれ。各自に支給されたPC内のデータに関してだが、そのまま残せとは言わない。
ただし、以前通知しておいたデータだけはCD-Rに焼いて残しておいてくれ。
流石にそれらが無くなると、経営が出来なくなる」
無言で俺達はそれぞれの机に座り始めた。
“これが最後か”と少しの感慨と共に電源ボタンを押し、PCを起動させる。
郵便局も含めれば、これで三度目の退社だ。
何やってんだろうな。と思いながら、隣にある一足早くここから去ったシナリオライターの机を見つめる。
「おい、麻枝の分は……」
「いいんだ」
今まで聞いた事のない質の声に、思わず顔をモニタに戻す。
“Operating System not found”
……は?
……フロッピーは入ってない。 344 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:46:03 ID:SJwllKEa0
まじかよ!
何回も再起動を行い、OSの立ち上げを試みるも、その回数分だけ“OS無いって言ってんだろボケ”が帰ってきた。
セーフモードでも立ち上がらない。
BIOSではHDDは認識されている……
こんな日に故障かよ……タイミングが悪すぎる。
残る望みはWindowsのCDで修復を試すか、他のマシンに接続してデータの吸い上げを試みるか。
憂鬱な思いと共に、CDを取りに行こうと立ち上がったその時だった。
「……嘘。故障してる!!」
「僕もだ!」
「……あたしもでしゅ」
「え、どういう事なの? 全員やられているの!?」
この時、俺はまず、このビルが落雷にでも有ってPC類が全滅したのかと予想した。
おかしな話だ。
夏なともかく、冬に落雷が来るか?
いや、仮に夏でもいい。
だとしても、昨日の天気は一日中快晴だったのに、何故落雷を予想した?
……もっとも有力な一つの可能性を消したかっただけかもしれない。
その願いは吉沢からの一言で打ち消された。
「俺は大丈夫だ」
声の発信源から一つの黒く四角い物が投げ込まれ、俺の額にヒットした。
「いて! フロッピーを投げつけるな……って“HDD erayser”?」
棒読みに近い形でフロッピーのラベルに書かれた文字を読む。
「律儀に俺の机に置いてあった。証拠を隠す程、卑怯ではなかったみたいだな」 345 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:46:39 ID:SJwllKEa0
後日判明した事だが、このソフトは簡単に言ってしまうと、HDDの中身をフォーマットによって全て消すツールだ。
市販の復元ツール等では太刀打ち出来ない程に。
これも、後日判明した事だが、消すときに使用した方式はグートマン方式らしい。
「データの吸い上げは不可能だ。もう帰っていいぞ。お疲れ様でした」
静まりかえるオフィス。
「ちょ、ちょっと待って下さい……そうだ! 僕一週間前にCD-Rにバックアップ取ったんです」
涙もどこかにいってしまった久弥が何枚かのディスクを持って、吉沢の元に駆けていく。
「待って、久弥く……」
いたるが止めようとするのも聞き入れないかの猛ダッシュだった。
差し出されたCD-Rを吉沢は気味悪いくらいの笑顔で受け取り、
「想像つくんだよなあ」
裏返しにした。
傷。
傷。
傷。
素人目にもわかるほどの、回復不可能な傷。
犯人は明らかだった。
証拠も無い、単なる推測だが、誰もが確信していた。
「な? 当たったろ。もういいよ」
吉沢の声だけが響く。
そして、次の言葉がTacticsで聞いた、吉沢の最後の言葉だった。
「さっさと消えろや。裏切り者」 422 名前:2話[sage] 投稿日:2006/09/10(日) 03:04:39 ID:M5aWuIG70
「あんたは無礼な人やな、吉沢さん。社会人としては失格やで」
「失格結構だ、下川さん。あなたみたいな人間失格に対しては礼儀など必要ない」
いつ頃からこんな空気になったのだろう。
最初はお互いにアメリカンコーヒーを頼んで和やかな雰囲気だったはずなのに。
「あんたが奴使うのは勝手や。そやけどな、あんなチンクシャ使ったところで絶対失敗するで」
「私もあなたもあいつも同じ“音屋”だ。実力を認められないわけないだろうに……」
冷房が寒いのを通りこして、何も感じなくなってきた。
リアル喧嘩をしたくは無いので、なんとか回避しなければならない。
「下川さん。私は何も喧嘩しにきたわけじゃない。ただ、うちの折戸が昔世話になっていた会社の上司に挨拶に来ただけだ。
なのに、何故最初から喧嘩越しに構えるのですか」
「構えてなんかないわ、ボケ。ただ“下”でせこせこやってる雑魚には興味ないだけや」
もう回避は不可能な事を確信した。
「……まあ、好きにやったらええわ。せいぜい“下”であがいとき」
「……ええ。好きにやりますよ。せいぜい“上”で裏切られなさい」
喫茶店の机が揺れた。
そんな時代でした。 423 名前:2話[sage] 投稿日:2006/09/10(日) 03:06:42 ID:M5aWuIG70
全国各地にある居酒屋チェーンの一店舗。
その中のトイレと煙草の自動販売機から一番近い席。
そこで、俺はある人と酒を暴飲していた。
「やりやがった! やりやがった! あの野郎本当に裏切りやがった!!」
「言ったやろ!? 奴はただの糖尿予備軍やって!」
自分の体型を棚に上げて言い放つ下川さん。
酒が入ったせいか、関西弁がいつもより濃くなっている。
だが、いまの俺には心を癒してくれる優しい一言だった。
「今日はありがとうございます、下川さん。なんかどうしようもなくなってしまって……」
「何言うとりますのや。うちらはあの糖尿に裏切られた、いわば穴兄弟ですやん」
品性を疑う下劣なギャグだが、今日ばかりは心地よい。
上手くも不味くも無い、微妙な軟骨な唐揚げを口に運び、ふと天井を仰ぎ見る。
「あーあんな裏切りはひでえよなあ……何がいけなかったのかなあ」
「これから、どうしまんねん? 良かったらうちに来まへんか?」
――これにYESと言っていたら、面白かったんじゃないかなあ。と5年後のYETは振り返る事になる。
「いえ。もう補強の新人取ってしまってまして……熱血だけが取り柄な奴とか、変な曲ばっか作る奴とか……」
「そんなのましでっせ。うちの“貴族”なんか……」
「?」
「今日は飲みまひょ! 上司のつらさをぶつけ合いまひょや!」
その日はただ飲みまくった。
そして、最後の2年間が始まった。 451 名前:3話[sage] 投稿日:2006/11/06(月) 03:18:36 ID:ImXMfaB10
吉沢は思った。
客が来ねえと。
こんな時は、昔の事を整理してみる。
何回か整理した中で、一番考えた項目は『どうやったら、KEY組の離脱を防げたのか』だ。
これに関しては既に結論は出ている。
言ってしまえば、“当時では無理”だ。
あの時の関連人物の、それぞれのキャパシティを考えると、どう考えても全員離脱を防げた可能性は無い。
そんじゃあ、今の自分がタイムスリップして、もう一回やり直せたら?
まあ、意味が無い仮定とは承知している。
“もう一回人生やり直せたら、俺は人生成功してるね。まず勉強して東大行って……”
こんな愚痴は、新橋やミナミの飲み屋で溢れまくっているだろう。
だが、これに関しても既に結論は出ている。
“麻枝は引き止められない”
どうしようも無いのだ。
あのダイヤの原石を手に入れた瞬間に立ち会ってしまえば、すぐに昔の俺に戻ってしまうだろうから。
そして、また同じ間違いをやってしまうだろうからな。
そこまで考えて、少し鬱になっている自分に気付き、気分転換に首を回してみる。
ボキッ!
……客がいたら骨折かと思われるような音に、自分が年をとった事を実感さぜるを得ない。
昔は今の仕事より数倍きつい仕事をしてたのに、疲れを全然感じなかったなんて、若かったなー俺。
いや、疲れ始めたのはあの頃か。
もっとも忙しく、
もっとも燃えていて、
もっとも悲しかった時だ。 452 名前:3話[sage] 投稿日:2006/11/06(月) 03:19:40 ID:ImXMfaB10
あのメンバーを揃えたのは、とにかく個性的な人物を揃えて、一刻も早く体制を整えたかったからだ。
仮に離脱した6人の内、だれか一人でも残っていれば、あのメンバーは誰一人集まらなかっただろう。
そういう意味では奇跡的なメンバーだったかもしれない。
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「柏木」
「はい」
「俺はお前にHシーンの曲を依頼した」
「はい」
「しかし、この3分52秒のトラックには、何も聞こえてこないんだが」
「それが狙いですよ、吉沢さん」
「ほう」
「ぶっちゃけ、エロシーンの音楽なんて邪魔ですよ! ○ナニーの邪魔でしかない! それをアシストしたいんですよ!」
「……」
「100曲の名曲より、1曲の伝説曲! それが俺のモットーです」
「コタ」
「はい」
「俺はお前にHシーンのイラストを依頼した」
「はい」
「しかし、この原画を見ると、途中から肌が黒くなり耳が尖がっている気がするのだが」
「それはダークエルフですよ、吉沢さん」
「ほう」
「ぶっちゃけ、人間を書いてても楽しくないんですよ、やっぱりユーザーは人間以外を求めているんですよ」
「……」
「“くろいえるふさんはとてもえろいとおもいます”これが僕の小学校の卒業文集です!」 453 名前:3話[sage] 投稿日:2006/11/06(月) 03:25:27 ID:ImXMfaB10
一時間後
「すみません、電車が遅れました!……あれ? るざりんやコタは?」
「ああ、あいつらなら反省したいからって仮眠室で座禅している。それより災難だったな、有島」
有島は異様な程に汗をかいていた。電車が遅れたのなら普通ならば、これ幸いとばかりに遅れてくる同僚ばかりだったが、
こいつだけは少しでも時間を無駄にしまいと走ってくる。
“……助けて! ゴキブリの擬人化は無理っ!!”“ゴキの! ゴキの羽音がBGMとなって俺を苦しめるぅ!”
「……なんか悲鳴が聞こえてくるんですけど」
「有島。お前はシナリオライターだから知らないだろうが、イラストや音楽の創作現場等あんな物なのだ。
インスピレーションとの戦いが、あのような絶叫を生み出す」
困惑している有島にインスタントのコーヒーを渡してやる。
「あ、どもです」
「お前は焦りすぎだ。たまの電車遅延くらいゆっくり歩け」
「……はい」
有島は明らかにハイペース気味にシナリオ作業を進めていた。
別に出来上がった内容は突貫工事レベルというわけではないが、最良とも思えない。
あらゆる意味で気負いすぎなのだ。
その分、柏木やコタは良くも悪くもマイペースだった。
二人がおちゃらけているのも、場の空気を和ますために、わざとやっているのだろう。
“いやああ!! 助けてくろいえるふさん!!”“ぶっ殺す!! 調子ぶっこいてんじゃねえーぞ虫がああ!!”
たぶんそうなのだろう。 453 名前:3話[sage] 投稿日:2006/11/06(月) 03:25:27 ID:ImXMfaB10
「相変わらず騒がしいですね」
嫌な声が聞こえた。
「あ……おはようございます!!」
そんなに元気な声は、俺には出せない。
「うん、ご苦労様」
あんたの笑顔は見飽きた。
「どうだね。吉沢くん。“勝てそう”かね」
なんで、そこが駄目と気付いてくれないんだ。
“コタ! このゴキは社長だ! そう思えば怖くない!”“うおおお! 僕の中から迸る勇気が!!”
ナイスタイミング。 512 名前:4話[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 02:03:09 ID:V07ZlgLI0
カップラーメン。
たまには食いたいが、いつもは食いたくない。
しかし、僕たちは現実という辛い壁を乗り越える事が出来ず、147円のシーフード味のカップヌードルで腹を満たすしかなかった。
「給料やっすいなあ」
るざりんが泣きそうな顔をしながら、まずそうに麺を啜る。
そう言いながら、スープまでしっかり飲むのが毎日のお決まり風景になってしまっていた。
「しょうがないよ。エロゲークリエイターで金持ってる人なんて聞いた事無いし」
「そうだよなあ。この業界にいてランチに毎日千円使えるようになるには、一国の宰相になるより難しいって言うしなあ」
いや、そんな事は聞いたことが無いけど……
「つーか、少しは元気出たか」
麺は啜りながら、急にそんな事を聞いてくる、るざりん。
「……そんな落ち込んでた?」
「いんや」
残りの麺を不味そうに、本当に不味そうに貪りながら、るざりんは答えた。
「むしろ、落ち込んでないように見せんのに必死だった」
「うっわ……」
すずうた。
ファンレターに載っている感想は、どれも絶賛の嵐だった。
“久しぶりに心に響く作品に出会えた気がします”
“まだまだエロゲーも捨てた物じゃないと思いました”
が、世間一般の総括として、次の評価が嫌でも耳に聞こえてきた。
“Kanonに敗北” 513 名前:4話[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 02:03:59 ID:V07ZlgLI0
「どこがいけなかったのかなあ……」
「ピカチュウをエロシーン間際に常人に戻した事じゃないかな」
「…うああ」
頭を抱え込む。社長の反対をも押し切って書き上げたシーンだが結果的には不評が集中したシーンだ。
「言ってなんだけど、社長なんて気にする事ねえよ。吉沢さんだって後押しくれたし、
それに何より、お前が書きたかったんだろ? その信念は好きだぜ」
「でも、そのせいで吉沢さんが社長に……」
「いーのいーの。お前も少しは吉沢さんに甘えろ」
「いや、つか、るざりんが言う?」
「微妙だな」
そこまで話したところで、二人で笑い出した。
この業界に入って、中々上手くはいかないけど、それでも僕は人に恵まれていると思った。 key離脱後の卓も佳作出してるよなー
夕焼けなんかもっと認められるべき 532 名前:5話[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:56:22 ID:ug9QU1uq0
僕の中で一番記憶に残っている吉沢さんの姿は、コミケのTacticsブースでるざりんと一緒に“夕焼け”をピアニカで弾いていた時の事だ。
るざりんに強引に引き込まれ、ホースを口に加える直前までゲンナリとした顔をしていたが、
いざ演奏を始めると隣のコスプレを前面に出しまくったブースや、声優のサイン会で客を集めていたブースから、一気に注目を奪った。
その時の感想は、今でも上手く説明する事が出来ない。
「よく少女マンガにあるじゃないですか。学園際のライブでのかっこよさに、
今まで異性として意識していなかったのに恋に目覚めてしまうってパターンが。それじゃないですかね?」
笑い話の中で出たコタの感想が、認めたくは無いけど、もっとも近いのかもしれない。
ホースに対して煙草を吸うかのごとく自然に息を吹き込み、最初の鍵盤を叩くと同時に汗だくの参加者は足を止め、
みんな真剣な眼差しで演奏を見た。
ずるかった。
るざりんは普段マクドナルドの事をマックというと烈火の如く怒りだすくせに。
吉沢さんは仕事中唐突に刺身パーティーを開催して、挙句の果て自分で選んだ刺身が糞まずいと文句言うくせに。
演奏が終るとみんなから心からの拍手を受け取り、ヒーローになるんだから。
ずるい程かっこよかった。自慢の同僚と先輩だった。
僕はるざりんも、コタも、吉沢さんも裏切った。
裏切ってまで手に入れたRasenは無くなった。
みんな僕の事を裏切ってなんかいないと言う。
るざりんはCDを出すたびに僕に送ってくれている。
コタはこの前一般紙にマンガが載った事を嬉しそうに語っていた。
吉沢さんも「飯くってっか」なんてお袋みたいな事ばっか言う。
だけど、僕が吉沢さんに業界引退の原因を作った事は間違いなかった。
目を瞑り、あの日の事を思い出す。 550 名前:6話[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 06:09:22 ID:FX/oVqIZ0
「遠慮しないでね、有島君。“後輩”なんだから、バンバン食べて飲まないとね」
すみません久弥さん。
僕が注文をするたびに財布をテーブルの下に持っていって、
真剣な表情で『あと2000円か……』と残金確認する、あなたの姿を見てしまうと、これ以上頼めません……
きっかけは“件名:先輩になる予定だった久弥(本名は林です)という者です”という一通のメールだった。
「僕とアホ麻枝に憧れて、入社した事を知りました。土壇場で逃げ出す事になってしまった事。
君にTacticsを背負わせてしまった事。これらについて偽善と思われるかも知れませんが、後悔しています。
今から僕達がTacticsに戻るとか、君をKeyに引き抜くといった事は現実問題出来ませんし、
してはならない事ですが、せめて先輩としてあなたの支えにはなってあげたいと……」
まあ、内容についてはこんな物だったと思う。
正直、実際に久弥さんにこうして居酒屋でご馳走になっている今でも、僕は困惑していた。
久弥さんは……まあ良い人なんだと思う。
ただ…なんというか…平謝りの連続で、そこまで謝られても困るくらいの展開が困惑の原因の一つ。 551 名前:6話[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 06:10:20 ID:FX/oVqIZ0
もう一つの原因は━━━
「Tacticsの様子はどう? また、社長はマスターアップ間際に啓発セミナーに連れていこうとしてる?」
「は、はい」
「あいつ、目立ちたがり屋だから、恥ずかしい思い沢山したんじゃない?」
「そうですね。ただ、この前座禅で3分で足が痺れて救急車呼ばれて、主催者に逆ギレしていました」
「ははは!」
平謝りモードが終って、僕達は普通の雑談をしていた。
僕の話にも楽しそうに笑ってくれる。吉沢さんとは違ったタイプの先輩なので、新鮮味があったし、
久弥さん自身も会話が上手かったので、楽しかった。
ただ。
「そこで社長が喧嘩している間、吉沢さんの指示で便所の窓から脱走したんですよ。
その時、『セミナーのパンプでは“このセミナーに来た人は何にも負けない勇気を得ます”とぶっこいている。それを検証しよう』
とか言って、本社で生け捕ったゴキブリを数匹解き放ってから逃げて……」
こんな事を話していいのかなと若干不安気味に顔を窺うと、なんと表現したらいいのかわからない顔をしていた。
辛いような。
面白いような。
懐かしいような。 552 名前:6話[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 06:11:12 ID:FX/oVqIZ0
「僕はちょっとトイレに行くけど、何でも注文していいからね。遠慮しちゃ駄目だよ」
小声で“銀行あったよな……”と呟きながら、久弥さんはトイレとは反対方向の自動ドアへ向かっていった。
もちろん、こんな状況で頼めるわけもないので、ちびりちびりとモスコミュールを飲み続ける。
憧れの人と会ってはいけない。なんて言ったのは、どこの哲学者だったか。
僕らの共通の業務であるシナリオどころか、エロゲー製作に関しての話題は、今まで何も出てきてはいない。
なんというか、“良い人”というのが印象だった。
だからこそ、僕は久弥さんに幻滅なんてしていないし、会えて良かったとも感じている。
552 名前:6話[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 06:11:12 ID:FX/oVqIZ0
「よ」
唐突に思考が断ち切られ、気付けは目の前の席に久弥さんではない男がいた。
「友達、いるか」
顔は美形で、僕や久弥さんが入る業界では中々いない種類の男だ。
「い、います」
「そうか、俺にもいた」
「信頼出来る上司はいるか」
なんなんだ、この変質者は。酒も入っていた事もあり、力ずくで追い出そうかと考える。
「は、はい」
「そうか、俺にもいた」
「仕事は楽しいか」
だけど、僕は受け答えをするしか出来なかった。
「え、ええ」
「そうか、俺は……やっぱいわねえ」
「野球好きか」
そうか、あの人に似ているんだ。
「ま、まあ」
「そうか! 俺も大好きなんだ! 球団どこファンよ、俺は巨人だぜ」
吉沢さんに。
「巨人以外です」
「死ね」 だったような気がする(久弥編) 上司たるもの(折戸編?)
第1話 >>3-5 第1話 >>53
第2話 >>8-11 第2話 >>55-59
第3話 >>13-15 第3話 >>60-62
第4話 >>19-21 第4話 >>63-64
第5話 >>24-27 第5話 >>65-66
第6話 >>30-32 第6話 >>68-69
第7話 >>34-36 第7話 >>70-71
第8話 >>39-40 第8話 >>72-73
第9話 >>42-45 第9話 >>74-75
あとがき >>46
新生Tactics
第1話 >>78-81
第2話 >>82-83
第3話 >>84-87
第4話 >>88-89
第5話 >>91
第6話 >>93-96 (未完) そう、ここで終わったんだよな……
あとだーまえが好きなのは大洋 乙。懐かしいスレだなあ。
10日ほど前にすずうたから10年経ったんだね。
YETボス、元気かな。元気だったらいいな。 エロゲソフトメーカーって、どこもこんな感じなのかなぁ。 この後、だーまえとひさやんはどういう邂逅を遂げるはずだったんだろう。。。 葉鍵ほど、スタッフのキャラが
二次創作に回されたのも珍しい。 この頃と比べると、
だーまえの神秘性もかなり
なし崩しになってきたもんだ。。。 今も昔も大して変わらんだろ…せいぜいmixi日記で薬漬けだったことが発覚したくらいで。 お嬢さんに革命のエチュードを弾かせてやりたいのだが誰か攻略法わかりませんかね まあ昔から皿うどんウンコズタボロジーンズ野郎だからな、だーまえ
未だに神秘性があるのは……久弥? >>109
sopranoか。懐かしいな
俺も当時必死にやったができないんだよなあ レベル5の曲は「絶対に弾けそうにないやつ」だから弾けない
ソースは俺
CDには完全版が入ってるけどあれはサービス
もし仮に弾けたとしても
「やったー」→「よし性交か」の流れになるのは必然 この後、だーまえと有島クンと久弥クンは
いったい何を話したんだろうな。。。 1年以上も続いた長寿スレだけそのうち復活するんじゃないかと
淡い期待を抱いてるんだけどねぇ… 仕事やりだしたら時間なんてなくなるからな…
大学時代は何だかんだ言ってやりたいことばっかりやってられた 職人さんが最後に現われてからもう2年か。
早いもんだなあ。 ttp://loserkashiwagi.com/diary.cgi?no=69 「なー」
「・・・」
「なー」
「・・・」
「怒ってないよ! てかお前気分悪くなって早退したんじゃないのかよ!」
「ンムフフフ。寝たら直ったぜ」
「アホかあ!!」
目の前で言い争っているのは、僕がこの業界を目指すきっかけとなった作品を作った人達。
野球少年で言えば、ONレベルの人達だった。
それが
「やっぱ怒ってるじゃん〜」
「帰れ! お前帰れ!」
僕の前で喧嘩していた。 僕が普段コタやるざりんとしている掛け合い、いや、それ以下の言い争いをしているのは意外だと思うと同時に、
親しみやすさを感じたのは、はっきりと覚えている。
会話の内容が面白かったこと。なんとなくお互い本気で憎んではいない掛け合いだったこと。
何より憧れである二人が自分の前で素を見せてくれた事が嬉しかったのかもしれない。
あの時はそれぐらい、僕は二人のファンだったのだ。
言い争いは、隣の机のサラリーマンの集団が入ってきて、“ここまじーから河岸変えようぜ”
と出て行くまで続いていたきがする。
結局僕が“是非麻枝さんも一緒に”と妥協案を出す事で言い争いは終わった。
「・・・たく、今日は有島くんに免じて参加させてやる。迷惑かけんじゃないぞ」
「わーい。林さん大好き」
「あと、明日出社したら謝っとけよ」
「えー。俺あいつきらいー。可能なら飯も一緒に食いたくねーよ」
「そんな事言うなよ。これから一緒にゲーム作る仲間なんだぞ」
久弥さんは急に声のトーンを落とした。さっきの言い争いも仲の良さを感じたが、
この忠告も友達だからこそ出るトーンのように思えた。
「んじゃあ仲介にお前立ってくれよ。憧れの久弥さんが一緒なら大丈夫だろうよ」
「お前一人でしなきゃ駄目なんだよ」
またトーンが下がった気がした。 「高槻シナリオの予定はあったんだよ」
「え。本当ですか!」
「ああ。郁未の母親と恋に落ちて脱走するシナリオ。なんで消えたかっていうと・・・」
「詩子や雪見にもエロシーンをつける予定はあったんだよ」
「え。本当ですか!」
「ああ。本編のそれとは違ってネットリとな。なんで消えたかっていうと・・・」
終始、こんな流れだったような気がする。最初はとにかく憧れの二人の話を聞き漏らさないと必死だったけど、
20分も絶てば普通に打ち解けあい、楽しい酒が飲めていた。
とにかく楽しい人達だったのだ。麻枝さんも久弥さんも。
楽しすぎてつい、“こんな二人と仕事できたらいいなあ”なんて考えが浮かんでしまい、
慌ててコタ達や吉沢さんに対して、心の中で謝罪した。
宴も佳境に差し掛かったところ、美少年を6杯飲んだ麻枝さんが急に僕に対して無茶ぶりしてきた。
「よし。キャラになりきる事も大事だな。後輩、お前俺らに告白してみろ」
「え、無理ですよそんな! ・・・つか先輩方が手本を見せて下さいよ!」
「有島君。んな無茶ぶり返しな・・・・・・」
「いーよ、やってやる。なあ林さん」
驚く久弥さんと、手を叩いて喜ぶ僕。
7杯目の美少年の入ったグラスを手に取ると久弥さんの目の前にまでグラスを持って行き、
麻枝さんはこうつぶやいた。
「いかないでよ、久弥さん」
一瞬の静寂の後、みんな笑った。大爆笑だ。
美少年が震えていた事も僕は気づかない。
声のトーンが大きすぎた事も気づけない。 作品を書くのは二年半ぶりです。
年を取りましたし、完結もできないでしょう。
ただ、私の作品を2010年まで覚えていてくれた人がいる。
嬉しいです。 >>138
おお!
正直、再開すると思ってなかったので嬉しいよ。
今月で葉鍵板が10周年だそうで、丁度懐古に浸ってたのもあって。
>「えー。俺あいつきらいー。可能なら飯も一緒に食いたくねーよ」
>「そんな事言うなよ。これから一緒にゲーム作る仲間なんだぞ」
>「んじゃあ仲介にお前立ってくれよ。憧れの久弥さんが一緒なら大丈夫だろうよ」
涼元ちん……? そもそも職人が
この現行スレに辿り着けていないんじゃないか
と思っていたので
再開されて安心したわ 職人復活してたのか。それだけでも嬉しいな
YETボスの生存も確認できたし今月は良い月だ 再開と聞いて麻枝スレから飛んできた
うおおおおおおお YETさん
帰ってきてください
あなたがいないと
さびしいです ttp://twitter.com/denkai_lab/status/17493381867
>「電開ラジオアーバンネットワーク第四回」のゲストは、
>『YET11』こと吉沢務さんをお迎えします。
!? >>152
・・・ええええ!?
よし、早速バケツいっぱいのきなこで歓迎だ!!! きなこって何だよ(w
頼むから、そうゆうのはお前の脳内だけで勘弁。 YETボスはきな粉が嫌いという事
遠いまなざし、おかあさん、雨、雪のように白く、憂い、名曲だ
このスレに居てきな粉の事知らないヤツがいたとは・・・ スパイラルスレッドのネタだろ
お前らこそ知らないのかよ
恥ずかしいぞw
お前らボス宛てにお便り送った?
何を聞こうか悩んでまだ送ってないのだが 聞きたいことはひとつ
たけど聞かないのが大人のマナー 末期少女病の開発が再開したとかしないとかって話を聞いたけど、そこにボスの名前はあるんだろうか おおまさかスレが復活しているとは嬉しいなぁ
そういえば何気にボスの名前でググッたらそれらしきtwitterを見かけたが本人なんだろうか?
呟きの中にヤカンくんの一生という単語があって驚いたんだが… >>167
旧よしぷるさん?
フォロー相手から判断するに本物だと思うが
電開のラジオは今月中らしいが、もう収録は終わったんだろうか ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています