お〜い、誰かyet11の行方を知らんか? Part3
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 343 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:45:24 ID:SJwllKEa0 
 昔の話。 
 あまり楽しい話じゃない。 
  
 久弥が泣きながら吉沢と一緒に会議室から出てきた。 
 麻枝は泣いたのは何回が見たが、こいつが泣くのは始めてだ。 
 目は三徹した時よりも真っ赤で、滝のように涙が出ている。 
 そして、鼻からは洪水のように鼻水が垂れ流されている。 
 倒れるように机に突っ伏して、嗚咽を流し続ける。 
 その姿を見て、俺と女子陣は苦痛な表情を浮かべる事しか出来なかった。 
  
 その間、吉沢はただ天井を見上げていた。  343 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:45:24 ID:SJwllKEa0 
  
 それから嗚咽は10分後にピークを迎え、30分後には沈静化した。 
 久弥がようやく、その涙で別人のようになった顔を正面にに向けられるようになったところで、 
 吉沢が声を発した。 
  
 「今日の内に私物は処分してくれ。各自に支給されたPC内のデータに関してだが、そのまま残せとは言わない。 
 ただし、以前通知しておいたデータだけはCD-Rに焼いて残しておいてくれ。 
 流石にそれらが無くなると、経営が出来なくなる」 
  
 無言で俺達はそれぞれの机に座り始めた。 
 “これが最後か”と少しの感慨と共に電源ボタンを押し、PCを起動させる。 
 郵便局も含めれば、これで三度目の退社だ。 
 何やってんだろうな。と思いながら、隣にある一足早くここから去ったシナリオライターの机を見つめる。 
 「おい、麻枝の分は……」 
 「いいんだ」 
 今まで聞いた事のない質の声に、思わず顔をモニタに戻す。 
  
 “Operating System not found” 
  
 ……は? 
 ……フロッピーは入ってない。  344 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:46:03 ID:SJwllKEa0 
  
 まじかよ! 
 何回も再起動を行い、OSの立ち上げを試みるも、その回数分だけ“OS無いって言ってんだろボケ”が帰ってきた。 
 セーフモードでも立ち上がらない。 
 BIOSではHDDは認識されている…… 
 こんな日に故障かよ……タイミングが悪すぎる。 
 残る望みはWindowsのCDで修復を試すか、他のマシンに接続してデータの吸い上げを試みるか。 
 憂鬱な思いと共に、CDを取りに行こうと立ち上がったその時だった。 
  
 「……嘘。故障してる!!」 
 「僕もだ!」 
 「……あたしもでしゅ」 
 「え、どういう事なの? 全員やられているの!?」 
  
 この時、俺はまず、このビルが落雷にでも有ってPC類が全滅したのかと予想した。 
 おかしな話だ。 
 夏なともかく、冬に落雷が来るか? 
 いや、仮に夏でもいい。 
 だとしても、昨日の天気は一日中快晴だったのに、何故落雷を予想した? 
 ……もっとも有力な一つの可能性を消したかっただけかもしれない。 
 その願いは吉沢からの一言で打ち消された。 
  
 「俺は大丈夫だ」 
  
 声の発信源から一つの黒く四角い物が投げ込まれ、俺の額にヒットした。 
  
 「いて! フロッピーを投げつけるな……って“HDD erayser”?」 
 棒読みに近い形でフロッピーのラベルに書かれた文字を読む。 
 「律儀に俺の机に置いてあった。証拠を隠す程、卑怯ではなかったみたいだな」  345 名前:新生Tactics[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:46:39 ID:SJwllKEa0 
  
 後日判明した事だが、このソフトは簡単に言ってしまうと、HDDの中身をフォーマットによって全て消すツールだ。 
 市販の復元ツール等では太刀打ち出来ない程に。 
 これも、後日判明した事だが、消すときに使用した方式はグートマン方式らしい。 
  
 「データの吸い上げは不可能だ。もう帰っていいぞ。お疲れ様でした」 
 静まりかえるオフィス。 
 「ちょ、ちょっと待って下さい……そうだ! 僕一週間前にCD-Rにバックアップ取ったんです」 
 涙もどこかにいってしまった久弥が何枚かのディスクを持って、吉沢の元に駆けていく。 
 「待って、久弥く……」 
 いたるが止めようとするのも聞き入れないかの猛ダッシュだった。 
 差し出されたCD-Rを吉沢は気味悪いくらいの笑顔で受け取り、 
 「想像つくんだよなあ」 
 裏返しにした。 
  
 傷。 
 傷。 
 傷。 
  
 素人目にもわかるほどの、回復不可能な傷。 
  
 犯人は明らかだった。 
 証拠も無い、単なる推測だが、誰もが確信していた。 
  
 「な? 当たったろ。もういいよ」 
 吉沢の声だけが響く。 
 そして、次の言葉がTacticsで聞いた、吉沢の最後の言葉だった。 
  
 「さっさと消えろや。裏切り者」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています