>>106より
「そんなことがあったんですか!?」
 千堂和樹(28)は思わず声を上げた。

 支持母体であるアクアプラスとの協議会。
 最後にアクアプラス側から、「それとなく」、取引先からワーキング・プア、下請けなどの問題について、
千堂にあまり取り上げさせるなと「申し入れ」があったのだという。アクアプラス側は、取引先に
「我々は千堂さんに介入できる立場にはない」と返して、この話は終わった。
 だが、千堂には、直接文句をいわず、アクアプラスを通して圧力を掛ける相手への不信感が残った。

 アニメ業界では、ワーキング・プアの問題が古くから横たわっている。
 今年五月の日本アニメーター・演出協会調査によれば、アニメ制作者の二〇代の若手スタッフの
百十万円、三〇代でも二百十四万円。
 加えて、テレビ番組の構造的な問題がある。アニメに限らず、スポンサーから出される制作費の多くは、
テレビ局や元請けの取り分となり、制作の現場には行き渡らないのが現実だ。麻生政権の
「国立メディア芸術総合センター」構想に対しては、「現場の役に立たない箱物」(陣営)と手厳しい。

 同人誌即売会・コミックマーケット76の参加者数は、三日間で延べ五十六万人(主催者発表)と過去最高を記録した。
その人気は、未だ衰えを知らないように見える。
 名の知れた同人作家である千堂は、どんなに予定が詰まっていても、即売会への
参加を欠かしたことはない。「選挙のおかげで、今回は修羅場が丸一ヶ月続く感じです」(選対)。
だが、その人気もいつまで続くか。
 実力相応の見返りは必要だ。しかし、生活するための収入も得られないのでは、最後には同人も自壊するの
ではないか。千堂は危機感を抱く。その一方で、実力とは無関係に金が動く構図を、アニメだけではなく、
ワーキング・プア全般の問題として積極的に選挙戦で訴えている。

 東京2区は中央、文京、台東区。下町の雰囲気が強いが、富裕層の多い文京区、山谷地区に掛かる台東区など、
地域ごとの格差も大きい。また、アニメや漫画などの関連企業も多い。加えて、築地市場の移転問題など、課題は山積している。

 千堂の集会に出席した参加者は語った。「アニメの殿堂もいいと思うんですよ。でも…今日を何とかして欲しい」。