「いやいやいや、僕は乙女じゃありませんから!」「突っ込むのはそこかい!」
23日、京急横須賀中央駅前。掛け合い漫才のような、七瀬留美(28)と直枝理樹(19)のやりとりだった。
神奈川11区は、小泉純一郎元首相(67)が盤石の地盤を築いてきた。引退を表明した元首相の後継に、
自民党は次男進次郎(28)を擁立。民主党は同学年の横粂(よこくめ)勝仁(27)が立候補している。
一方、七瀬は無所属として二度元首相に挑戦したが、いずれも落選している。
「あたしでは不足というのかっ」。去年9月、葉鍵連合が直枝の公認を決めた時の、七瀬の叫びだった。
七瀬らの属する戦術グループは、鍵派内でも微妙な扱いを受けてきた。一昨年の参院選で、初めて
党の公認を受けたが、衆院選では半数以上が出馬断念やくら替えを余儀なくされた。しかし七瀬の懸念は、
そのことだけではなかった。
3代続いた小泉王国の壁は厚い。表立って逆らえば、村八分とさえいわれている。初めてなら、
もっと楽な選挙区から出馬させるべきではないのか。「直枝君で、この選挙区に耐えられますか」。
七瀬はリトルバスターズ(暴風野球団)との会合で、真顔で問うた。「大丈夫です」。直枝はさらに言葉を継いだ。
「一番やりがいのある強敵と、戦わせて下さい」。これで、決まった。
政治とのかかわりはなかった。子供の頃、自称正義の味方「リトルバスターズ」の仲間に加わった。
高校生になってから、草野球チームに衣替えした。仲間と楽しく遊ぶ日常。その新しい戦場が、総選挙になった。
ミニ集会に一人も来ないこともあった。それでもめげずに、集会と辻立ちを続ける。
直枝はナルコレプシー(過眠症)患者としても知られている。日中の耐え難い眠気の他、脱力発作などの症状がある。
規則正しい生活と服薬で、症状を抑えることはできるが、それでも急な眠気が来ることがあるという。
選挙運動に不安もあったが、「移動中に昼寝をすることで、十分対処できます」という。
「もう少し経験を積んでから出た方がいい」という共産党・伊東正子(68)の指摘をかき消すかのように、
3人の若者は、時間をたがえて同じ横須賀中央駅頭で「第一声」をあげた。