「ご紹介にあずかりました、来栖川芹香です――」
 来栖川芹香(29)のか細い声が、スピーカーから演説会場に響いた。
 神奈川3区。来栖川重工を始めとする、来栖川グループ城下町ともいわれる工業地帯だ。
 前回、実妹の来栖川綾香(28)選対委員長が立ったが惜敗。
 綾香が参院選に転出し、当選したことから、候補者選びは難航した。

 その第一の要因は、来栖川グループの動向だった。
 経営側は、将来の社長候補である、芹香にこれ以上の政治色を付けることをためらった。
一方、来栖川労組は、かねてより葉鍵に“是々非々”を表明。加えて、来栖川労組は連合でも
旧同盟系に所属。民主党は旧同盟の支援する、民社協会組織内候補である岡本英子(44)の擁立を決めたことから、
それを上回る「来栖川グループが応援できる」候補が望まれた。神奈川3区は「来栖川指定席」。
ある関係者は、苦笑混じりにそう呼ぶ。

 にもかかわらず芹香の公認が遅れたのは、候補者としては致命的と言える、芹香の声の細さだった。
初出馬となった、2003年の衆院選。演説会では観衆用のプロンプターで内容を伝えたが、動員された
組合員などからは「やっぱり、候補者が声を出さないと張り合いがない」とのぼやきも聞かれた。
綾香の再転出や、来栖川労組からの擁立など、二転三転した末の公認決定だった。

(続く)