>>77より
 そして今回。演説会は最小限に留め、特注のマイクとスピーカーで臨んだ。公開討論会は、
特別の隠しマイクで乗り切った。企業、労組のあいさつ回りはなるべく綾香に任せ、芹香はもっぱら街頭に立つ。
 手に持つのは名刺、ビラ、そしてマニフェストの簡易版。夏が来てからは、うちわ型のビラも加わった。
場所と時間によって、その都度持ち替えている。傍らにいるのは、護衛を兼ねる選対員が一人、二人。

 17日、連休明けの朝のJR鶴見駅。駅に向かう通勤客を相手に、ひたすらビラを配った。
話しかけられると、こくこくと頷き、時折首を横に振ってみせる。「始めた頃は、お客さんに絡まれたりして
ハラハラさせられました。でも、だんだん反応は良くなっています」(陣営)。

 昼下がりの商店街。残暑の厳しい中、三角帽子にマント姿の独特の風貌で、芹香は歩いていた。
選挙カーにも自転車にも乗らず、買い物客などにビラを配って歩く。共産党の古谷靖彦(37)と鉢合わせした時にも、
黙ってビラを差しだした。一瞬とまどいの表情を浮かべた古谷は、ビラを受け取ると、代わりに
自らのビラを手渡し、芹香は深々と黙礼して受け取った。
 態度で示せばわかってもらえると信じて。芹香は声なき「声」を届けるため、歩く。

(敬称略)