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WHITE ALBUM 2 *157 [無断転載禁止]©bbspink.com
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0001名無しさんだよもん2016/01/07(木) 15:40:41.02ID:0HoD7Tj70
 もうすぐ、新しい冬が来る。
 あのひとといられない、そしてあいつのいない冬が。

 ホワイトアルバムなんて知らない。
  だって、もう何も歌えない。

  届かない恋なんてしない。
   だって、もう人を愛せない。

『 W H I T E A L B U M 2 』

WHITE ALBUM 2 〜introductory chapter〜
 Windows 18禁 / 2010年3月26日発売
 初回限定版:税込定価6,090円 / 通常版:税込定価5,040円

WHITE ALBUM2 〜closing chapter〜
 Windows 18禁 / 2011年12月22日発売
 書き下ろしノベル付初回限定版:税込定価8,190円 / introductory chapterセット版:税込定価10,290円

★製作スタッフ
  シナリオ:丸戸史明
  原画:なかむらたけし(CC:桂憲一郎、柳沢まさひで、甘味みきひろ)

★WHITE ALBUM 2 introductory chapter 公式サイト
  (p)http://leaf.aquaplus.co.jp/product/wa2ic/

★WHITE ALBUM 2 closing chapter 公式サイト
  (p)http://leaf.aquaplus.co.jp/product/wa2cc

★前スレ
  WHITE ALBUM 2 *156
  http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1447471457/

★過去スレまとめ
  http://w.livedoor.jp/white_album2_ss/d/kakolog
★関連スレ
 ** WHITE ALBUM #33枚目** [Leaf・Key板]
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1379781080/
 【PS3】WHITE ALBUM -綴られる冬の想い出- 10枚目
  http://peace.2ch.net/test/read.cgi/gal/1327017577/
 【AQUAPLUS】WHITE ALBUM2 幸せの向こう側10
  http://peace.2ch.net/test/read.cgi/gal/1416892595/
 丸戸史明総合スレ その20 [転載禁止]©bbspink.com
  http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1448480657/
 【WHITE ALBUM2】小木曽雪菜スレ ヒトカラ17曲目
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1411899086/
 【WHITE ALBUM2】冬馬かずさスレ 砂糖59杯目
  http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1447098546/
 【WHITE ALBUM2】杉浦小春スレ 3年参り [無断転載禁止]©bbspink.com
  http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1450550138/
 【WHITE ALBUM2】和泉千晶スレ ネコ2匹目
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1338829309/
 【WHITE ALBUM2】 最強OL 風岡麻理スレ ピル2錠目 [Leaf・Key板]
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1333452576/
 【WHITE ALBUM2】 友近 浩樹 スレ 2人目 [Leaf・Key板]
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1328941153/
 【WHITE ALBUM2】 北原春希スレ 2
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1352121979/
 【WHITE ALBUM2】 亜子・小百合・矢田 三人娘スレ [Leaf・Key板]
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1326879965/
 【WHITE ALBUM2】柳原 朋スレ [Leaf・Key板]
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1326881733/
 【WHITE ALBUM2】水沢依緒 [Leaf・Key板]
  http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1326017951/
0002名無しさんだよもん2016/01/07(木) 15:42:56.42ID:0HoD7Tj70
★WHITE ALBUM2 同好会ラジオ(現在休止中)
ttp://www.onsen.ag/program/wa2/

★PS3版 White Album 2 2012年12月20日発売
パッケージ版…2,800円(税抜) DL版…2,057円(税込)

【プレミアムエディション】
描き下ろし特製パッケージ
WHITE ALBUM2 同好会ラジオ特別版CD
WHITE ALBUM2 ピアノスコア
ICカードステッカーセット
オープニングアニメ絵コンテ集

・主な変更点
モーションポレート採用
新イベントCG追加
BGM、歌の追加
新キャラ追加はなし
丸戸氏によるエクストラエピソード「不倶戴天の君へ」及び修正部分の監修

WHITE ALBUM2 PS3版公式サイト
http://aquaplus.jp/wa2/

★PS Vita版 WHITE ALBUM2  2013年11月28日発売
パッケージ版…2,800円(税抜) DL版…2,057円(税込)

限定版には、にいてんご「雪菜」「かずさ」を同梱

追加要素:
名場面マーカー(名場面でのスキップ無効化)
テキストをビジュアルノベル方式に変更できる
(モーションポートレートは採用されていません)

WHITE ALBUM2 PSvita版公式サイト
http://aquaplus.jp/wa2vita/

★WHITE ALBUM2アニメ版公式サイト
http://whitealbum2.jp/

WHITE ALBUM2(ホワイトアルバム2) 35曲目
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1398817335/

書き下ろしショートノベルPDF形式『届かない恋、届いた』掲載
http://aquaplus.jp/wa2vita/special/index.html

★WHITE ALBUM2 ミニアフターストーリー
Windows用ADVゲーム『WHITE ALBUM2 ミニアフターストーリー』(丸戸史明書き下ろし)を応募者全員にプレゼント。
収録内容は下記の2本となり、ゲーム版のアフターストーリーをプレイできます。
小木曽雪菜ミニアフターストーリー
冬馬かずさミニアフターストーリー
(応募は2014年11月末に締め切られました)
0003名無しさんだよもん2016/01/07(木) 15:44:16.30ID:0HoD7Tj70
★WHITE ALBUM 2 推奨攻略順
 1.  「-introductory chapter-」1周目
 2.  サウンドノベル「雪が解け、そして雪が降るまで」
 3.  「-introductory chapter-」2周目(イベントが追加されている)
 4.  (C78)ドラマCD「祭りの前〜ふたりの24時間〜」+付属ノベル「雪菜の三十分」(ap storeにて通販可)
 5.  書き下ろしノベル「Twinkle Snow〜夢想〜」(オフィシャルサイトにpdf形式にてDL公開)
 6.  サウンドノベル「歌を忘れた偶像(アイドル)」
 7.  「-closing chapter-」千晶、麻理、小春 ルート(順不同)
 8.  「-introductory chapter-」3周目(イベントが追加されている)
 9.  ドラマCD「祭りの日〜舞台の下の物語〜」(「-closing chapter-」予約キャンペーン特典)
 10 「-closing chapter-」雪菜ルート 以後最後まで
 11 (C81)購入者限定販売書き下ろしドラマCD「一泊二日の凱旋」(ap storeにて通販可)
 12 ソフマップ初回限定特典ピロートークCD『幸せの日〜ベッドの上の物語〜』

ソフマップ様の御厚意により、全て公式サイトで公開中
・一生分の幸せ(小木曽雪菜)
・通い妻の矜持(杉浦小春)
・心温まる猥談(和泉千晶)
・10分でできること全部(風岡麻理)
・忠犬はご機嫌斜め(冬馬かずさ)

※ピロートーク以外はPS3、vita板に収録

          | ̄ `.>'´        -─- .、 `ヽ   ハ
          | ̄/              \ハ   ハ
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        /         \  \   \   ハ   ',
       / /    l   |     \  \   ハ   ハ.   ヽ
        / /   /  l   |   ',   \  \   ハ  ハ\  \
      l /|  / |  | | ト、  \  ヽ\-‐\  ハ  | \  \
      l | |  l  |  | | |, ゝ‐  \ '´\>ミ、\ l  |   \  \
      l | |  l  |  レ'´! 斗ミx\ ヽ. Y f::::ぅ、゙Ylレ'⌒!    \  \
      l | |  l  |  | |.∨f:::::ハ   ̄`   l:::::::::}  l ,八      \  \
       j/ ', ∧∧,斗.! {{ v::::::ハ      ゝ- '  ,' r / \      \  \
          ∨ l {  ヘ   ゝ‐'゚   ,        ム イ    \      \
             ト、 ゝ、 .ヘ     r   ┐    ∧      \
             | ∧  `¨トゝ.     ゝ _ ノ   イ,、,, \      \
            ! ∧    ハ>        / |  ゙'、, \      \
            l__∧    ∨  ,{ ≧匕___|  ,, ゞ.  \      \
        ,,'´    \ \ \ ゙乍三三三弐  ゙'ト 、  \
       /          ヽ \ \ ゙,}  ☆   },,   `゙、, `ヽ \
     /           ∧  ',   ∨        ゙'、 ,,、 {,    \
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rく   rく           /    ∧     !         ゙', ,,,, ゙',
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テンプレ終了。
次スレは>>950あたりが宣言して立てて下さい
0004名無しさんだよもん2016/01/07(木) 16:23:38.08ID:PYLkMRru0
>>1………お前は本当に駄目な奴だ

だから…………俺が>>1乙するしかないだろ?
0005名無しさんだよもん2016/01/07(木) 16:24:19.01ID:PYLkMRru0
あたしは久しぶりにスレ立てしてもらったからって、すぐ>>1乙するようなバカ犬じゃない
たくさんレスしてもらわないと>>1乙しない、賢い犬なんだからな
0006名無しさんだよもん2016/01/07(木) 16:24:57.42ID:PYLkMRru0
>>1

『冬馬かずさ、急死

 2月14日、ピアニストの冬馬かずさ(28)が現在活動拠点としているウィーンの病院で亡くなった。
 1月末に行われた野外コンサート期間中に演奏を行ったことで体調を崩し、その後の活動の強行で肺炎を引き起こし、入院時には既に手術や投薬治療も間に合わない程弱っていたという。
 彼女の所属する冬馬曜子オフィスでは、故人の葬儀をウィーンで行った後、遺骨を日本に送り、社長である故人の母冬馬曜子が引き取る流れになっているという。
 冬馬かずさがウィーンでの活動を始めたのは……』

「申し訳ありません!」

 北原春希がソファーにも腰掛けず、床に這いつくばるようにして深々と土下座を繰り返した。そんな春希を工藤美代子は向かいのソファーの後ろでただオロオロと見詰めているだけだった。

「あなたの責任じゃないわよ……春希君」

 そしてその向かいのソファーに座っていた女性、冬馬曜子――今の春希の義母――は、思い掛けない形での五年ぶりの再会の場で、それこそ母親の眼差しと声で春希を優しく包み込んだ。

「でも、でも俺、あいつを、かずさを……」
「だからそれは、あなたの責任じゃない。あの子の自己責任よ」
「それだって、全部俺が背負うものだったのに。あいつの全てを守るはずだったのに」
「……そのことで、あの子はあなたに恨み言をぶつけた?」

 ハッとしたかのように春希は顔を上げた。曜子の顔は娘を失った母親とは思えない程に穏やかだった。

『かずさ、しっかりしろ!』
『春希……情けない顔、するな』
『でもお前、このままじゃあ』
『何を勘違いしてるかは……知らないが、あたしは……幸せだったよ』
『過去形かよ!俺たちまだこれからじゃないのかよ!?』
『春希……ありがとうな』
『止めろ!そんな言葉、お前から聞きたくない!』
『……』
『……かずさ?』
『……あ、あ……』
『かずさぁ!』

「あなたが何もかも捨てて自分の側にいてくれたんだもの。あの子は幸せだったと思うわ、きっと」
「でも、俺はかずさを守れなかった。あいつを今以上に幸せにできなかった。
 あいつが本当に幸せになる道を、永遠に閉ざしてしまった……」

 向かい合ったソファーの間に置かれたテーブルの上、かずさの死が掲載された新聞が開かれている。既に日本でもこのことは公にされているのかと、春希の心は更なる重しに圧し掛かられた。

「でもありがとう。わたしはもうこんな身体だから、あなたがかずさの遺骨や遺品を持って来てくれて、正直感謝してる」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいのよ。あの子だってきっと後悔はしていない。
 むしろ、あなたに辛い思いをさせてしまってごめんなさい」
0007名無しさんだよもん2016/01/07(木) 16:25:45.62ID:PYLkMRru0
「あ、瀬ノ内さん。今日は…」
 板倉記者が口を開いたところを、すかさず千晶は自分のセリフを重ねてつぶす。
 千晶はいつもこの手でこの小うるさい雑誌記者をはぐらかしていた。舞台の間の取り方を逆用したワザである。
「ああ、冬馬さん。わたし。クラス別だったけど学年同じだったよ。でも覚えてないよね。瀬能千晶っていうんだけど」

 突然見知らぬ学友に話しかけられ、今度は冬馬が泡を食う。
「え、ええ?」
 かまわず千晶は続ける。
「ひょっとして、今の舞台見ていた? ごめんごめん、全然気付かなかった」
 そういう千晶の顔は悪戯を見つけられた少年のものだった。だが、その目はひそかにかずさの反応を注意深く見ている。
「あ、いや、今日は別件で…」
 その答えを聞き、千晶は軽い舌うちとともにぼやいた。
「やっぱりか…、ちぇ。春希も雪菜もチケット渡したのに見に来なかったし…」
 そのつぶやきは誰にも聞きとれないほど小さかった。しかし、ピアニストであるかずさの耳にははっきりと聞こえた。

「…春希たちの知り合い?」
 かずさの声のトーンが微妙に変わったのを千晶は聞き逃さない。
「うん、春希とは何度か寝たよ」
「…っ!」
「わたしはベッドで春希は床で」
「………」
 からかわれたことに気付いたかずさは凶悪な目つきで千晶を睨む。しかし千晶は気押されることなく、飄逸な口調をやめない。
「ごめんごめん、ゆるしてちょんまげぇ〜…って」
 かずさから、けして許すまじとばかりの怒りのオーラが立ち上る。

 千晶はその様子をひととおり観察し終わるや、カバンから何かを取り出し、両手を前で組んで言った。
「まぁ、おわびといっちゃあなんだけど…『かずさぁ、明日ヒマ?』」

 その言葉に、かずさは不意をうたれる。
 急になれなれしく名前で呼ばれたことに対してではない。
 その声色、口調、しぐさがまるで…かずさの不倶戴天の親友のまさにそれであったから。

「???っ…あ、ああ…」
 かずさは思わず肯定の返事を返してしまった。
「『よかったぁ。じゃ、絶対絶対来てよね。…来てくれないとちょっとだけ傷ついちゃうかもなぁ…』」

 そう言って、千晶はかずさの手に強引にチケットを2枚握らせる。
 その際の演技も完璧に『小木曽雪菜』のそれであった。
 かずさは混乱のあまり何も反抗できずにチケットを受け取る。

「『じゃあ、見終わったらまたこの場所で会おうね』」
「…あ、うん…」
 かずさは呆気にとられ、こくりとうなずくばかりであった。

 その後の事はかずさはよく覚えていない。
 たしか、瀬能千晶と名乗るあの新人女優は板倉記者にもチケットを渡して去っていった。
 板倉記者からはいろいろと質問されたが、何も答えられなかった。
 ただ、一緒に翌日の舞台を見に行く約束だけして別れた。

 自分と峰城大付の同学年ということだが、もちろん覚えはない。
 『春希』と『雪菜』を名前で呼ぶあの人物は何者? ただの大学とかの同窓生?
 あの時見せた演技は何? ただのモノマネ上手?

 いろいろ考えたけど埒があくはずもない。
 かずさは考えるのをやめた。明日、あの瀬能千晶という女に直接聞けばわかることだ。
 
 寝床に転がりながら眺めた、シーリングライトに透けるそのチケットには「5/13(木) シアターモーラス 劇団コーネックス二百三十度『届かない恋』」と印刷されていた。
0008名無しさんだよもん2016/01/07(木) 16:26:37.91ID:PYLkMRru0
>>1

『冬馬かずさ、急死

 2月14日、ピアニストの冬馬かずさ(28)が現在活動拠点としているウィーンの病院で亡くなった。
 1月末に行われた野外コンサート期間中に演奏を行ったことで体調を崩し、その後の活動の強行で肺炎を引き起こし、入院時には既に手術や投薬治療も間に合わない程弱っていたという。
 彼女の所属する冬馬曜子オフィスでは、故人の葬儀をウィーンで行った後、遺骨を日本に送り、社長である故人の母冬馬曜子が引き取る流れになっているという。
 冬馬かずさがウィーンでの活動を始めたのは……』

「申し訳ありません!」

 北原春希がソファーにも腰掛けず、床に這いつくばるようにして深々と土下座を繰り返した。そんな春希を工藤美代子は向かいのソファーの後ろでただオロオロと見詰めているだけだった。

「あなたの責任じゃないわよ……春希君」

 そしてその向かいのソファーに座っていた女性、冬馬曜子――今の春希の義母――は、思い掛けない形での五年ぶりの再会の場で、それこそ母親の眼差しと声で春希を優しく包み込んだ。

「でも、でも俺、あいつを、かずさを……」
「だからそれは、あなたの責任じゃない。あの子の自己責任よ」
「それだって、全部俺が背負うものだったのに。あいつの全てを守るはずだったのに」
「……そのことで、あの子はあなたに恨み言をぶつけた?」

 ハッとしたかのように春希は顔を上げた。曜子の顔は娘を失った母親とは思えない程に穏やかだった。

『かずさ、しっかりしろ!』
『春希……情けない顔、するな』
『でもお前、このままじゃあ』
『何を勘違いしてるかは……知らないが、あたしは……幸せだったよ』
『過去形かよ!俺たちまだこれからじゃないのかよ!?』
『春希……ありがとうな』
『止めろ!そんな言葉、お前から聞きたくない!』
『……』
『……かずさ?』
『……あ、あ……』
『かずさぁ!』

「あなたが何もかも捨てて自分の側にいてくれたんだもの。あの子は幸せだったと思うわ、きっと」
「でも、俺はかずさを守れなかった。あいつを今以上に幸せにできなかった。
 あいつが本当に幸せになる道を、永遠に閉ざしてしまった……」

 向かい合ったソファーの間に置かれたテーブルの上、かずさの死が掲載された新聞が開かれている。既に日本でもこのことは公にされているのかと、春希の心は更なる重しに圧し掛かられた。

「でもありがとう。わたしはもうこんな身体だから、あなたがかずさの遺骨や遺品を持って来てくれて、正直感謝してる」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいのよ。あの子だってきっと後悔はしていない。
 むしろ、あなたに辛い思いをさせてしまってごめんなさい」
0009名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:03:53.80ID:PYLkMRru0
・取材後

春希「……」
麻理「ふむ。まあ、固くなるな。もう上司でも部下でもないのだからな。
 事情は曜子社長から聞いた。私はお前が選んだ道を肯定したり否定するつもりはない」
春希「…ありがとうございます」
麻理「だが、お手並みは最悪だ」
春希「!?」
麻理「北原、お前は冬馬かずさを助けたいのか?」
春希「な!? 助けたいに決まっています」
麻理「助けたいがために開桜社にも何も語らなかった。そうか?」
春希「はい…」
麻理「全く、これほど先の見えてない男だとは思ってなかったな」
春希「!?」
麻理「確かに、一時のマスコミの興味本位の報道から免れることはできたな。そのために自らの退社理由を隠し、冬馬かずさが日本を去ることもひた隠しにし続けた」
春希「はい…」
麻理「どうなったと思う?」
春希「ご迷惑おかけしました…」
麻理「…全くわかってないようだから説明しておこう。お前たちの出国から一週間足らずで冬馬かずさがお前と共にウィーンにいることが知れた。
 すぐに事の次第も明らかになった。
 大変だったよ。
 浜田やアンサンブル編集長は矢面に立たされたし、冬馬曜子オフィスと我が社の関係は最悪になった」
春希「そ、それは…」
麻理「新人一人やめた程度と思ったか? 残念ながらお前はただの新人どころかかなりの有望株だった。だから期待もコストもかけていた。
 例えすただの新人でも取り引き相手からの無断引き抜きなんて言語道断の掟破りだ。
 日本から静かに去るために誤情報流すのもな。日本での活動を支援するために方々回っていたアンサンブル編集長がどんな目に遭ったか想像できるか?」
春希「す、すいません…」
麻理「日本から去るから開桜社にはいくら迷惑かけても良いとでも思ったか? 残念ながら、この狭い世界、ましてや狭すぎるクラシック界ではな、お前のやったことは恥知らずの所行にしか過ぎない」
春希「しかし、自分はかずさを…」
麻理「守りたかった。それはわかる。しかし、冬馬かずさをピアニストとして活動させる為には最悪だったと言わざるを得ない。
 迷惑は巡り巡って自分の所に降りかかるものだ。アンサンブルが社内から槍玉に挙げられ、これを機にと社内のメセナ活動でアンサンブルの持ってた枠を奪う動きが起きた。そんなドタバタは社外にも伝わった」
春希「……」
麻理「最初の一年半、全く仕事取れなかっただろ? お前の語学力とかの問題じゃないぞ。英語もできるんだし」
春希「な、何かあったんですか?」
麻理「冬馬曜子オフィスは味方も敵も多かった。そんな中、ウィーンで有力なある日本人が『冬馬かずさを使うのは避けたい』と言った。開桜社とのトラブルを避けたいがために。たったそれだけの事だ」
春希「え?」
麻理「企業同士のトラブルなんて『もう仲直りしましたよ』ということを知らしめるのが一番難しいんだぞ。
 まして、お前たちが日本の仕事避けまくってるから尚更だ」
春希「そ、そんな…」
麻理「あの狭い業界、仲違いしても結局すぐ仲直りしないといけないし、人と仲違いしたらそれ以外の人間から避けられまくるから気をつけろ」
春希「はい…」
麻理「ウィーンの件の人物も悪い人じゃない。甘いもの好きだから、金沢『やまむら』の甘納豆でも買って持って行け」
春希「何から何まで…ありがとうございます」
麻理「本来、新人が取り引き相手に引き抜かれたといっても、双方了解済みの話なら歓迎しても良いくらいの話なんだぞ。新たな方面へのパイプとして期待できるわけなんだからな。
 了解の有無で婿入りと駆け落ちくらいの雲泥の差がある」
春希「そ、そうは言われてましても…」
麻理「まあ、お前の場合はこれからだ。悪いが、期待かけていた分まで働いてもらう。ビジネス相手としてな。
 お前は私が育てあげた男だ。逃げられると思うなよ」
春希「…楽しそうですね。麻理さん」
麻理「当たり前だ。曜子社長の粘り強さのおかげでやっと社の関係も戻り、お前とこうして会えるようになったからな。
 グラフも『ブラックだから人が逃げた』とあらぬ誹りを受けている。しっかり拭ってもらわないとな」
春希「(十分ブラックですよ…)」
麻理「これからもよろしくな。北原」
0010名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:04:47.74ID:PYLkMRru0
あたしは久しぶりにスレ立てしてもらったからって、すぐ>>1乙するようなバカ犬じゃない
たくさんレスしてもらわないと>>1乙しない、賢い犬なんだからな
0011名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:05:51.98ID:PYLkMRru0
「脳のここの部分に腫瘍がありますね。最近、頭痛を感じた事は?」

「いいえ…」

 春希はそう答えた。しかし、実のところ慣れない異国での激務で身体に不調を感じることは頻繁であったので、最後に頭痛に襲われたのはいつかなど覚えてはいなかった。

「浸潤が激しく、悪性である疑いが高いです。摘出手術が困難な箇所ですが…化学療法や放射線治療もあります。希望を持って治療を続けて下さい…」

「はい…」

 誰にも相談できない。特にかずさには…

◆◆ 

「ただいま」

「遅いぞ、春希」
 玄関のドアが開き、片付けのできないかずさの待っていた家からはカビと生乾きの洗濯物の匂いがした。

「誰の尻拭いで遅くなったと思っているんだ?」
「あたしの尻を追っかけるしつこい記者を追い払うのも春希の仕事だろう?」

 気怠い身体を引きずって帰って来ても玄関で待つのは憎まれ口。そんな生活を今まで続けてきた。

 医者から言われた事が頭の中で泥色の渦をまく。何も考えたくない。休みたい。
「今日は疲れたよ。明日も早いしもう…」

 しかし、そんなささやかな望みさえ、我が侭放題に育てられた愚妻は許してくれない。
「3日も待ったんだぞ」

 かずさがナメクジのように腕をからめてくる。胃の底に生ぬるい鉛を流し込まれたような気分だ。

 眠い。この腕を払って眠ることができればどんなにか楽だろう。

 ベッドを一つにするんじゃなかった…
 逃げ道など最初からない。首筋に湿った唇が押しあてられる。
 鈍い悪寒が背筋をこわばらせた。
0012名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:09:26.73ID:PYLkMRru0
春希 「驚いたなぁ。かずさにそんな人がいたなんて」
曜子 「…あまり動揺してくれないのね」
かずさ 「こういう男だ。春希は」
春希 「いやいや。驚いていますよ。あんなに曜子さんに仕事漬けにされていた上に、俺たちと会ったときもそんな浮いた様子一つもありませんでしたから」
かずさ 「そんなの隠していたに決まってるじゃないか」
春希 「そりゃ、自分みたいなマスコミの記者に話すなんて日本全国に広めてくださいって言っているみたいなものだしな。
   でも、祝福してくれる人もたくさんいると思うぞ。俺もそうだし」
かずさ 「そういう意味じゃない。ったく」
春希「?」
曜子 「…まあ、いいわ。ともかく、かずさが選んだ事だし。私みたいな趣味の悪い女がとやかく言える話じゃないわね」
春希 「それで、相手の人ってどんな人なんですか?」
かずさ 「橋本健二さん」
春希 「え、えと。どんな人かって質問なんだけど」
かずさ 「な!? お前はアホか?
   なんで今を時めく若手ナンバーワンピアニストの健二さんを知らないんだ? 仮にも記者のはしっくれだろ? お前は!」
春希 「え、えーと。かずさに比べて特徴ない人だから…」
曜子 「おやおや。女王杯始め数々の賞を取った身長2m弱の巨漢の化け物ピアニストが『特徴ない』なんて、まぁ。
   ま、胸の大きさなら私の娘も十分化け物級だけど」
かずさ 「健二さんを化け物呼ばわりするな。あの人はああ見えてそういうのすごく気にする人なんだ」
春希 「はは。無知ですいません」
曜子 「ま、ギター君はできないと自分で決めちゃった線からは本当に努力しないコだもんね。
   ギターの腕にせよ、クラシック知識にせよ」
春希 「…返す言葉もありません」
かずさ 「ふん」
曜子 「ま、人間手の届かない才能目差した努力はしない方がいいわよ。
   幸せにできるのはその手の届く人だけ。好きなだけ崇拝してるだけでは、2、3年は良くても結局5年10年はうまくいかないものよ」
かずさ 「ふん。とっかえひっかえした経験者の言葉かい?」
曜子 「ええ。だから、橋本さんとの縁は本当に歓迎しているわ。
   あなたのような、ピアノだけのちょっといびつに育ってしまった娘を、その才能を、崇拝でもなく知識としてでもなく、同じ才能を持ち共に歩んで行ける存在として受け止めてくれる人と出会えたんだから」
かずさ 「ふふん♪」
春希 「良かったですね」
曜子 「おや? あなたの『良かった』は『フった女が幸せに収まりそうで良かった』の意味じゃなくて?」
春希 「ぐ…」
かずさ 「ちょっと! 母さん! それはやめろよ!」
曜子 「あらあら。ギター君、わかりやすい表情。ひょっとしてかずさがこの先独身だったらどうしようとか気に病んでくれてた?」
春希「……」
かずさ 「フフン。残念だったな」
春希 「い、いえ。…そ、そういえば、お二人の馴れ初めなど聞かせていただけると…」
曜子 「かずさの方からよ。もう、猛烈アタック。そうしなきゃダメって経験が生きたわね」
かずさ 「(赤面)ちょっと! 母さん!」
春希 「はは…普段のかずささんからはなんだか想像できませんね」
曜子 「冬馬家の女の性欲なめんな。男ナシで20代の盛りを乗り切れるワケないでしょ」
春希 「……」
かずさ 「…あんたの血を受け継いでこれほど後悔した日はないな」
曜子 「ま、そういうワケで。明日の記者会見までは口外禁止でね」
春希 「いえいえ。ありがとうございました」
曜子 「じゃ、またね」
かずさ 「またな、春希。…あ、そうだ。もうひとつだけ教えてやる。耳を貸せ。春希」
春希 「なんだい? かずさ」
かずさ 「(ゴニョゴニョ)」
春希 「…(がくっ)…そりゃ、向こうは身長2mで…(ぶつぶつ)」
かずさ 「じゃあな。春希」


曜子 「さっきギター君に何吹き込んだの? カレ、心へし折られたような表情してたわよ」
かずさ 「…いや、健二さんの方が大きくて固かったって」
曜子 「…えげつない子ね。さすが私の娘ね」
かずさ 「いや、自分でもえげつないと思うけど、あたしやっぱり母さんの娘だよ」
0013名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:11:59.70ID:PYLkMRru0
荒らしがSS投下して容量オーバーになるよう荒らしてんだよ

>>358
へー、不人気雪菜派の荒らしが頑張ってるのかw
いつまでもいつまでたっても不人気なのが証明されて涙を誘うけどそんなことしてたとはw

>>358
へー、不人気雪菜派の荒らしが頑張ってるのかw
いつまでもいつまでたっても不人気なのが証明されて涙を誘うけどそんなことしてたとはw
0014名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:15:05.48ID:PYLkMRru0
『冬馬かずさ、急死

 2月14日、ピアニストの冬馬かずさ(28)が現在活動拠点としているウィーンの病院で亡くなった。
 1月末に行われた野外コンサート期間中に演奏を行ったことで体調を崩し、その後の活動の強行で肺炎を引き起こし、入院時には既に手術や投薬治療も間に合わない程弱っていたという。
 彼女の所属する冬馬曜子オフィスでは、故人の葬儀をウィーンで行った後、遺骨を日本に送り、社長である故人の母冬馬曜子が引き取る流れになっているという。
 冬馬かずさがウィーンでの活動を始めたのは……』

「申し訳ありません!」

 北原春希がソファーにも腰掛けず、床に這いつくばるようにして深々と土下座を繰り返した。そんな春希を工藤美代子は向かいのソファーの後ろでただオロオロと見詰めているだけだった。

「あなたの責任じゃないわよ……春希君」

 そしてその向かいのソファーに座っていた女性、冬馬曜子――今の春希の義母――は、思い掛けない形での五年ぶりの再会の場で、それこそ母親の眼差しと声で春希を優しく包み込んだ。

「でも、でも俺、あいつを、かずさを……」
「だからそれは、あなたの責任じゃない。あの子の自己責任よ」
「それだって、全部俺が背負うものだったのに。あいつの全てを守るはずだったのに」
「……そのことで、あの子はあなたに恨み言をぶつけた?」

 ハッとしたかのように春希は顔を上げた。曜子の顔は娘を失った母親とは思えない程に穏やかだった。

『かずさ、しっかりしろ!』
『春希……情けない顔、するな』
『でもお前、このままじゃあ』
『何を勘違いしてるかは……知らないが、あたしは……幸せだったよ』
『過去形かよ!俺たちまだこれからじゃないのかよ!?』
『春希……ありがとうな』
『止めろ!そんな言葉、お前から聞きたくない!』
『……』
『……かずさ?』
『……あ、あ……』
『かずさぁ!』

「あなたが何もかも捨てて自分の側にいてくれたんだもの。あの子は幸せだったと思うわ、きっと」
「でも、俺はかずさを守れなかった。あいつを今以上に幸せにできなかった。
 あいつが本当に幸せになる道を、永遠に閉ざしてしまった……」

 向かい合ったソファーの間に置かれたテーブルの上、かずさの死が掲載された新聞が開かれている。既に日本でもこのことは公にされているのかと、春希の心は更なる重しに圧し掛かられた。

「でもありがとう。わたしはもうこんな身体だから、あなたがかずさの遺骨や遺品を持って来てくれて、正直感謝してる」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいのよ。あの子だってきっと後悔はしていない。
 むしろ、あなたに辛い思いをさせてしまってごめんなさい」
0015名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:17:32.12ID:PYLkMRru0
暗いSSが多いから明るいSSも貼ろうぜ
色々なSSを見比べるのも偶には良いものだ

 結婚して一年目の二月七日。
 誕生日の一週間前のこの日になって初めて、雪菜がこんな提案をしてきた。

雪菜「ねぇ、春希くん。新曲の歌詞、できてる?」
春希「……は?」
雪菜「は、じゃないよ。もう一週間前だよ?
   わたしたちのいつものペースから考えて、そろそろ合宿に入らないといけないと思う!」
春希「や、だから」
雪菜「わたし、ちゃんとかずさには連絡してあるからね。それでもうスタジオだって予約してあるんだから。
   準備万端だよ? ふふっ、これも春希くんの影響かなぁ。
   あとは春希くんが歌詞を作って、かずさが曲を作って、練習するだけ!」
春希「いやそれ、『だけ』じゃなくて曲作りのほぼ全部……」
雪菜「さ、頑張ろう? わたしの誕生日までもう時間ないんだよ?」
春希「…………」

 ……重ねて言うが、雪菜がこんな提案をしたのはこの日が初めてである。
 そして、これは俺自身もまぁどうでもいいといえばいいのだが、もう一つだけ。
 武也も仲間に入れてやってくれ。

 ◆◆
 とはいえ、新妻のやりたいことをできる限り応援するのは夫の務めではないだろうか。
 そう脳内で言い訳して、バックパックにこれでもかとばかり食品や生活用品や、そういったものを詰める。
 そしてそんな都内に不似合いな大荷物を担いでスタジオに行くと、既に待機していたかずさとの挨拶も
 そこそこに早速歌詞作りに入った。
 テーマは家族。愛しのお姫様のご指定だった。

春希「家族。家族か……」
かずさ「なんだ、雪菜との理想の家庭像でも想像してるのか?」
春希「あー。それもあるなぁ」
かずさ「どうせイチヒメニタローがどうとか、家は一戸建てもいいけどリスクを考えると、とか。
    そんなしょうもないことばっかりなんだろ?」
春希「そ、それのどこが悪いんだよ!
   どこかの誰かみたいにそれ一本で勝負できるものがないんだから仕方ないだろう。
   ……それより一姫二太郎なんて言葉、よくお前が知ってたな」
かずさ「う、うるさいんだよ委員長は! ったく、相変わらず安定志向な奴め。
    これじゃ、出来上がる歌詞も面白みがなさそうだ」
春希「いいだろ本職じゃないんだから……。そんなこと言うくらいならお前は雪菜と遊んでろ。
   そうだな、歌のお兄さんとお姉さんごっこがいいんじゃないか?」
かずさ「誰がお兄さんだ!」
春希「先回りして怒んなよ!」

 何故だろう。スタジオに入ると精神年齢まで高校時代に戻るような気がする。
 純粋に騒いでいられたあの頃と、色々――なんて言葉で片付けたら雪菜に申し訳なくなるくらいの頃。
 そしてうちの親まで雪菜が篭絡した後で、結婚。
 ……本当に、愛すべき妻だ。
 かずさが廊下に出て行くのを見届け、呟いた。
0016名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:21:19.56ID:PYLkMRru0
「あ、瀬ノ内さん。今日は…」
 板倉記者が口を開いたところを、すかさず千晶は自分のセリフを重ねてつぶす。
 千晶はいつもこの手でこの小うるさい雑誌記者をはぐらかしていた。舞台の間の取り方を逆用したワザである。
「ああ、冬馬さん。わたし。クラス別だったけど学年同じだったよ。でも覚えてないよね。瀬能千晶っていうんだけど」

 突然見知らぬ学友に話しかけられ、今度は冬馬が泡を食う。
「え、ええ?」
 かまわず千晶は続ける。
「ひょっとして、今の舞台見ていた? ごめんごめん、全然気付かなかった」
 そういう千晶の顔は悪戯を見つけられた少年のものだった。だが、その目はひそかにかずさの反応を注意深く見ている。
「あ、いや、今日は別件で…」
 その答えを聞き、千晶は軽い舌うちとともにぼやいた。
「やっぱりか…、ちぇ。春希も雪菜もチケット渡したのに見に来なかったし…」
 そのつぶやきは誰にも聞きとれないほど小さかった。しかし、ピアニストであるかずさの耳にははっきりと聞こえた。

「…春希たちの知り合い?」
 かずさの声のトーンが微妙に変わったのを千晶は聞き逃さない。
「うん、春希とは何度か寝たよ」
「…っ!」
「わたしはベッドで春希は床で」
「………」
 からかわれたことに気付いたかずさは凶悪な目つきで千晶を睨む。しかし千晶は気押されることなく、飄逸な口調をやめない。
「ごめんごめん、ゆるしてちょんまげぇ〜…って」
 かずさから、けして許すまじとばかりの怒りのオーラが立ち上る。

 千晶はその様子をひととおり観察し終わるや、カバンから何かを取り出し、両手を前で組んで言った。
「まぁ、おわびといっちゃあなんだけど…『かずさぁ、明日ヒマ?』」

 その言葉に、かずさは不意をうたれる。
 急になれなれしく名前で呼ばれたことに対してではない。
 その声色、口調、しぐさがまるで…かずさの不倶戴天の親友のまさにそれであったから。

「???っ…あ、ああ…」
 かずさは思わず肯定の返事を返してしまった。
「『よかったぁ。じゃ、絶対絶対来てよね。…来てくれないとちょっとだけ傷ついちゃうかもなぁ…』」

 そう言って、千晶はかずさの手に強引にチケットを2枚握らせる。
 その際の演技も完璧に『小木曽雪菜』のそれであった。
 かずさは混乱のあまり何も反抗できずにチケットを受け取る。

「『じゃあ、見終わったらまたこの場所で会おうね』」
「…あ、うん…」
 かずさは呆気にとられ、こくりとうなずくばかりであった。

 その後の事はかずさはよく覚えていない。
 たしか、瀬能千晶と名乗るあの新人女優は板倉記者にもチケットを渡して去っていった。
 板倉記者からはいろいろと質問されたが、何も答えられなかった。
 ただ、一緒に翌日の舞台を見に行く約束だけして別れた。

 自分と峰城大付の同学年ということだが、もちろん覚えはない。
 『春希』と『雪菜』を名前で呼ぶあの人物は何者? ただの大学とかの同窓生?
 あの時見せた演技は何? ただのモノマネ上手?

 いろいろ考えたけど埒があくはずもない。
 かずさは考えるのをやめた。明日、あの瀬能千晶という女に直接聞けばわかることだ。
 
 寝床に転がりながら眺めた、シーリングライトに透けるそのチケットには「5/13(木) シアターモーラス 劇団コーネックス二百三十度『届かない恋』」と印刷されていた。
0017名無しさんだよもん2016/01/07(木) 17:27:15.52ID:PYLkMRru0
暗いSSが多いから明るいSSも貼ろうぜ
色々なSSを見比べるのも偶には良いものだ

 結婚して一年目の二月七日。
 誕生日の一週間前のこの日になって初めて、雪菜がこんな提案をしてきた。

雪菜「ねぇ、春希くん。新曲の歌詞、できてる?」
春希「……は?」
雪菜「は、じゃないよ。もう一週間前だよ?
   わたしたちのいつものペースから考えて、そろそろ合宿に入らないといけないと思う!」
春希「や、だから」
雪菜「わたし、ちゃんとかずさには連絡してあるからね。それでもうスタジオだって予約してあるんだから。
   準備万端だよ? ふふっ、これも春希くんの影響かなぁ。
   あとは春希くんが歌詞を作って、かずさが曲を作って、練習するだけ!」
春希「いやそれ、『だけ』じゃなくて曲作りのほぼ全部……」
雪菜「さ、頑張ろう? わたしの誕生日までもう時間ないんだよ?」
春希「…………」

 ……重ねて言うが、雪菜がこんな提案をしたのはこの日が初めてである。
 そして、これは俺自身もまぁどうでもいいといえばいいのだが、もう一つだけ。
 武也も仲間に入れてやってくれ。

 ◆◆
 とはいえ、新妻のやりたいことをできる限り応援するのは夫の務めではないだろうか。
 そう脳内で言い訳して、バックパックにこれでもかとばかり食品や生活用品や、そういったものを詰める。
 そしてそんな都内に不似合いな大荷物を担いでスタジオに行くと、既に待機していたかずさとの挨拶も
 そこそこに早速歌詞作りに入った。
 テーマは家族。愛しのお姫様のご指定だった。

春希「家族。家族か……」
かずさ「なんだ、雪菜との理想の家庭像でも想像してるのか?」
春希「あー。それもあるなぁ」
かずさ「どうせイチヒメニタローがどうとか、家は一戸建てもいいけどリスクを考えると、とか。
    そんなしょうもないことばっかりなんだろ?」
春希「そ、それのどこが悪いんだよ!
   どこかの誰かみたいにそれ一本で勝負できるものがないんだから仕方ないだろう。
   ……それより一姫二太郎なんて言葉、よくお前が知ってたな」
かずさ「う、うるさいんだよ委員長は! ったく、相変わらず安定志向な奴め。
    これじゃ、出来上がる歌詞も面白みがなさそうだ」
春希「いいだろ本職じゃないんだから……。そんなこと言うくらいならお前は雪菜と遊んでろ。
   そうだな、歌のお兄さんとお姉さんごっこがいいんじゃないか?」
かずさ「誰がお兄さんだ!」
春希「先回りして怒んなよ!」

 何故だろう。スタジオに入ると精神年齢まで高校時代に戻るような気がする。
 純粋に騒いでいられたあの頃と、色々——なんて言葉で片付けたら雪菜に申し訳なくなるくらいの頃。
 そしてうちの親まで雪菜が篭絡した後で、結婚。
 ……本当に、愛すべき妻だ。
 かずさが廊下に出て行くのを見届け、呟いた。
0018名無しさんだよもん2016/01/08(金) 06:36:54.00ID:wfzqyC8n0
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辺境の地で雪かきも手伝わずに部屋にこもって
家族からも迷惑がられながら今日も一人シコッてる寂しい富山君でありました
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