この時の北川が「ザイアンス効果」を知っていたのか否かはわからないけれど、香里の
心の内に自らを事を留める事には成功したのだ。

2日間の不在は北川が風邪を引いたから。 そうではなく他の所用であったのなら、北川は
何としてでも香里に会いに来ていただろう。 風邪をうつしてしまってはマズイという
真っ当な判断のうえでの中断だったのだ。

四日目、ついに香里の方から北川へ声がかかった。
ただ、まだ香里の中には恋に相当するような感情は無い。 安心感を与えてきた相手への
単純なる興味心によるモノであった。

「貴方、よく続くわよねぇ」 本当に素のままに感想を言っただけだった。

しかしすでに減っているとはいえ、香里詣での男たちからは驚きの声が上がる。
それはそうだ。 これまで香里の方から声を発した場合、確実に「お断り」の
言葉が出てきているのみだったのだから。
あの香里が、香里の方から、香里が興味を示して、特定の男に話しかけて来て
いるのだ。

「それはもう、俺は真剣だからね!」と北川。
「何に?」と香里。
「美坂にさ」 声の調子も表情もいつもと変わらず、北川は言ってのける。
「わたしに?」
「そう!」
「貴方が?」
「そう!」

「・・・・・ふ〜ん」と香里。 実際の所は声には出していない。

イヤな気分ではない・・・それは自分でも分かった。 でもだからと言ってこの北川君
というクラスメイト(あ、そうかこの人クラスメイトだったんだ)に自分が女と
して心惹かれている訳ではなさそうだし、今後はどう接したらいいのかしら?、なんて
考えている。 そのこと自体、これまでの香里には無い考えなのだが。

「明日も来るの?」
「もちろん!」
「そう、待ってるわ」

短いやり取り・・・でもそれは「明日も会いましょうね」の約束に他ならない。
少なくとも、このやり取りを見ていた周りの者たちには大きな事件と言っていい
位の事だった。

この様子をいつも側で見ていた名雪は気付いていたのだ。
「香里は恋をしている」と。 最もこの後の北川の闘いが、さらに考えられないくらいに
長期戦になるとは思っていなかったが。