彼氏のフリ(祐一的に)といっても特別なことをしてもワザとらしいので、とりあえず
「手を繋いで行ってみるか?」と祐一は提案した。

「え?」
「だから、登校は一緒なんだし手を繋いで行ってみるのはどうだって事さ」

眠そうな顔のままでイチゴジャムのパンを齧っていた名雪は、糸みたいになっていた眼を
見開いて祐一をまじまじと見る。

「いいの?」
「あぁ」
「うん、そうしよう」(うわ〜、祐一からこんな事、言ってくれるなんて)
「・・・あ、でも寒いからきっと冷たいよ・・・手」
「うわ、それはイヤだなぁ・・・やっぱ止めよう」
「え〜、そんなぁ〜」(藪蛇だよう・・・)

やり取りを見ていた秋子さんが奥に行ったかと思うと「はい、名雪・・・それと祐一さん」
と手渡して来たモノがあった。

「秋子さんコレ、掌の部分だけ口が開いていますが」と変わった手袋を見ながら祐一
は尋ねる。

「昔、名雪に言われて作った事があったんですよ、これと同じものを・・・サイズは
 もちろん、ずっと小さい子供用でしたけど」
「あ〜私、思い出したよ」
「なんだってこんな変わったモノを・・・」
「祐一のせいで頼んだんだよ、子供の頃に」

秋子さんが説明を始める。
「祐一さん、あの頃はいつも名雪と手を繋いで出掛けて行っていたじゃないですか、
 迷子にならない様に・・・」
「そういえば・・・そうですね」
「でも、途中で必ず手を放しちゃうんですって」
「?」
「名雪が言うには祐一さんが『手が冷たくなるからヤダ』って言ってポケットに手を
 入れて繋いでくれなくなっちゃうんですって、途中で必ず」
「あ〜あ〜そういやそうだったかも」
「だから当時、私が作ってあげたんですよ・・・で、コレはそれの言ってみればサイズ
 違いの2代目仲良し手袋です」

「あの時は日の目を見なかったけど、こうして今回は使えるんだね」
「祐一さん、ちゃんと手を繋いであげていてくださいね・・・でないと・・・」

ここで一拍言葉を区切って、秋子さんは祐一を見つめる。 その瞳は真摯に祐一を
見ていたがスグにいつもの柔和な瞳に切り替わる。  そして・・・・・

「・・・でないと冷たいですよ、手」と言いながらニッコリと笑った。