「何はともあれ北川君の一念が通じたって事だよね〜」
アタフタから回復した名雪はニコニコしながら、背中に隠れている香里に向かって首を回して
肩越しに声をかける。
「だからそう言ったでしょ、単純接触効果って」
香里はちょっと悔し気な顔をしつつも答える。

「なあ、香里・・・俺としてはとっても嬉しいし、ちょっと信じられないくらいなんだが
ホントなんだよな」
「なによぅ、ホントもホントよ・・・北川君の粘り勝ちよ・・・全く」
香里は相変わらず名雪の後ろに隠れたままだが、頬をふくらませてみせた。
「おわ〜、香里ぃ・・・お前可愛いなあ〜〜〜」
北川はその様子に歓喜している。

今までずっと手の届かないと思っていた女の子が・・・あの香里が「俺を好いてくれている」
という事実は・・・まぁ、一生分の幸せを濃縮して感じているみたいな気分であった。

「じゃ、じゃあさ、潤って呼んでくれよ」
「・・・・・・・嫌!」ほぼ間髪入れずに、にべもない答えが返ってくる。
「えぇ? 何でさ? 晴れて両想いになれたんだぜ、頼むよぉ」
「嫌よ」
「む〜〜〜、どうしてさ、何でさ、いかなる仕儀さああああああああ!」

香里が引っ込んでいた名雪の後ろから出て来る、北川の前にそのまま向き直る。

「今ね、私はこうして北川君の前に立っているだけでも気恥ずかしくなっちゃって、いっぱい
いっぱいなのよ・・・そんな私が下の名前なんかで呼んでみなさいよ・・・正気じゃいられ
無くなっちゃうじゃない」

最初は北川の顔を見ていた香里だったが、またすこーしづつ目を逸らさずにはいられないらしく
・・・でも、香里は北川の前に一生懸命に留まっている。

「ウホおおおお」と北川は、そのあまりに愛らしい姿に身もだえてしまう。
もう、お互いがお互いを見ていられない・・・・・周りの観衆からしてみれば「あぁ、もうご勝手に」
と言ってしまいたくなるくらい見ていられない二人だった。

この陰で名雪は「祐一、協力の約束、忘れてないよね」と声をかけている。
「なんだっけ?」
ガコッと鈍い音がして、祐一の頭上に教科書の背表紙が縦に打ち付けられた。
「のわ〜、なンて事すんだお前はぁ」
「協力!」名雪はキスでもしかねないくらい顔を近づけて、念を押す。

周りの観衆の関心は今一度、元の祐一・名雪ペアに移る・・・様に名雪はワザとそれをして、香里の
援護を開始していた。