「いままでだって一緒にお昼していた事があったけど北川君、貴方いっつもパンとかじゃないの」
「ん、まぁ親が用意しようか・・・とも言ってくれてるけど鞄が重くなるしな」
「それなら・・・・・私が用意してあげるって言うんだから、損は無いと思うんだけど?」
「そうだなぁ・・・」
北川はチラリと名雪の方を見る。

(な、水瀬・・・香里のヤツ、急に恥ずかし気なそぶりも見せずに提案してきているけどさ
コレって受けていいもんなのかな?)
(そだね、ちょっと私も予想外なんだけど、ココで断ったらきっとかなり凹んじゃうよ、香里は)
(だよなあ)

香里は面白くない。 (こんなに魅力的な提案を自分から振ってあげているのに、何でこの人は
二つ返事で喜んでくれないのだろう?)
そして何より自分ではなく、この人は名雪の方を見ているのである。

「そうよねぇ〜、名雪はあの秋子さんに仕込まれているものねぇ〜・・・そりゃあ私より名雪に
作って来て欲しいわよねぇ〜」

語尾が「ねぇ〜」で統一されている・・・香里は今度こそ本当に嫉妬しているのだ。
この弁当策を仕向けた祐一は、そう感じた。 
この弁当は確かに秋子さんが作ったモノではあるが、名雪は香里の言う通りに秋子さんの一人娘
だけの事はあって、料理はのスキルはかなり高い。
名雪でなく秋子さんが作っているのは・・・名雪の朝の弱さ所以である。

祐一は思い出す・・・名雪と香里の会話の中での事にこんなのがあったのを。

「私は香里の引き立て役だよね・・・どれ一つ取っても敵わないんだもん」
「何言ってんのよ、その可愛らしさ・・・私が男だったら放って置かないわ」
「あんなにしょっちゅう男の子に囲まれている香里が言っても、説得力全然ないよぉ」
「あ〜、え〜と・・・・・」
「香里、今、一生懸命に探してるでしょ? 私の方がいいって所・・・」
「そ、そんな事は無いわよ・・・それに名雪には相沢君っていう彼氏もいるじゃない?」
「それだって、香里に応援のおかげだよ?」
「〜〜〜〜〜〜」詰まってしまう香里・・・でもすぐに
「名雪の料理、アレは凄いじゃないのよ、お店に出せるレベルだと思うわ」
「やっと見つけて、ホッとしてるでしょ? 香里」
「彼氏持ちの幸せ満開娘には、反論の余地はないのよ」

最後の一言で名雪は言い負かされてしまった・・・でもお料理の面で負けている事実は、香里に
とって認めざるを得ない所だったのだ。

香里の性格からして、相手が名雪であったとしても悔しくない訳がないハズである。
いま、その弱点に於いて北川が名雪のお弁当の事を羨ましがっている(様に見える)のは、香里の
「女」としての意地に火を点けるに十分だったのだ。