それでも名雪は幾分に慣れていたのか耐性があるのか、早めに正気に戻って香里の介抱をしていた。
香里も香里で、衝撃的な内容ではあったが対象が祐一だったので30分もすると、我を取り戻す。
それでも(秋子さんの対象が北川君だったら・・・)と思うと、言い知れぬ恐怖があった。
香里の憧れであり目標でもある、一方の理想が秋子さんなのだ。 北川も秋子さんの美貌には、
そして年齢を感じさせない可愛らしさには、悔しいが一目置いているのが事実だ。
その人が恋敵になったら「太刀打ち出来るわけがない」と思うのも自然だろう。 コレが佐祐理さん
が相手であったとしたら、香里はその戦力差を顧みず闘っていたかも知れない・・・そんな感じだった。
でもそこには香里の自分自身の事ゆえの、判断ミスがある。 北川は例え秋子さんや佐祐理さんがどんな
手段に訴えて来たとしても、香里への気持ちは揺るがない・・・という点である。
ある意味、名雪よりも幸せ満開少女であると言える・・・気が付けていないだけで。
「ごめんなさいね、まさか本気にするとは思わなかったのよ」
「お母さん、もうこの手の冗談は駄目! 学習機能つけてよね・・・破壊力が大きすぎるんだから」
娘に怒られてちょっと凹み気味の秋子さんは、話題を戻すために香里に改めて問いかける。
「で、香里さん、本当の所は名雪に何の相談だったのかしら? やっぱり(恋バナ)ですか?」
「ハッキリ言ってそうです」
「まぁ! 香里さんに好かれるなんて、その男の子が羨ましいですね」
「誰かは聞かないんですか?」
「祐一さんではないのでしょう?」
「はい」
「それならいいんですよ。 聞くのは野暮ってものです・・・名雪」と秋子さんは娘に水を向けて
状況を確認することにした。
「お弁当ねぇ、古今から伝わる正攻法な戦術です・・・ですけど失礼ながら香里さん、貴女のその方面の
実力はいかがなモノなのかしら?」
「名雪には敵わないです。 でも壊滅的な訳でもありません」
「そう」と秋子さんは暫く頬に手を当てて考えている様子であったが、今度は祐一に問いかける。
「祐一さんは、どう考えますか?」
「俺は普通に作って行けばいいと思います。 さっきも言ってたんですけど、好いた女の子にお手製の
弁当を作って来てもらえる・・・という事実の方が大きいハズですから。 事に香里にベタ惚れの北川
ですし、奇をてらう必要はないんじゃないかと」
香里は「私ったらそんなに好かれているの?」と思うのと、それを声高に議論されている事実にまた赤くなっていた。