家では届いた祐一の荷物を解くのを少しづつ手伝い、名雪が下ごしらえをして、その後
オーナーシェフの秋子さんが夕餉を整える感じの日々が数日続いていた。

明日が祐一が名雪たちの通う学校へ初登校と言う夜、ちょっとした事があった。
今までお風呂にはいつも祐一が先に入って、その後に名雪・秋子さんと言う順番だったの
だが、明日の準備が気になっていた祐一は編入の書類などを確認しているうちに、結構な
時間になってしまっていたのだ。

「早く風呂に入って温まって寝なくては」とトントンと階段を降りていくと、ちょうど風呂
あがりの名雪が既に眠そうに糸目になって上がって来た所だった。

「え、祐一、今からお風呂?」
「ああ、そうだけど」

階段の途中の狭い場所で、しばらく互いの顔を見続ける。
名雪の目があの幼い頃に発動した「女の勘」の時よろしく見開かれ、瞳にハイライトが映る。

「え、え、だって今、私が出てきた所なんだよ」
「だからいいんだろ、混浴する訳じゃあるまいし。 それともするか?」
「ち、ちょっと待ってよぅ、お湯だってそのままなんだよ」
「そりゃそうだ。 秋子さんだってこの後に入るだろうに」
「待っててば〜、お母さん〜」名雪は手すりを掴んで祐一の進行を食い止めている。

「どうしたの名雪?」
「お母さん、お風呂に入っちゃって」
「でも、祐一さんは明日が初登校だし、早めに休むためにも先に入ってもらった方が良くない?」
「〜〜〜〜〜〜〜もう、いいから入っちゃてぇー」

秋子さんは分かっていながら、「いいのかしら、祐一さん?」とか言って名雪をちょっと困らせてみる。
祐一としては、相手は保護者兼家主だ。 否も応もない。 普通に自分が残り湯に入る事にした。

秋子さんは湯船に浸かりながら「まだまだねぇ、名雪」と一人、微笑んでしまう。
「でも、私が入る事で解決させるって・・・ちょっと酷くはないかしら?」

お察しの通りに、名雪は自分の入った残り湯へそのまま祐一が入る事に、言い表せない程の恥ずかしさ
があったのだ。 今まで男性のいない家庭だったのだしその辺は仕方ない事かも知れない。

祐一も祐一で、その辺を勘案してあげられる程では無いから困ったモノである。