これは、私がKEY社員の頃の話です。開発室から出る時、真っ茶色な毛で体全体を
おおった鹿が、パソコンの前に立っていました。その鹿が振り向いて
近寄って来た時に、そのスレが酷くループしていた事から、私は鹿が捜索されている事
を知ったのです。その鹿は透き通った声で言いました「折戸君、俺、まだいるよ。
只今、大空を巡回中。 追いつけるものなら追いついてみたまえ」わたしは(何か
誤解されてるな)と思い乍らも、そこは突っ込まずに、それよりも鹿が何故
まよう事なく私の名前を言い当てたのか、知りたいと思いました。「どこか
で、会ったかしら?」すると鹿はクスクスと可笑しそうに笑い、本を
読むように饒舌に語り始めたのです。「担当部署が違うから、知らなくても
無理はないけど、アナタと同じ会社の社員よ。貴方は音楽で私はシナリオ。廊下の端
と端ですものね。でも私は、ずっと前からアナタを知っていた・・・。
処世術の下手な人間ほど、評価には敏感なものよ。アナタはとても高い評価で、麻枝
の人望も厚くて、よく皆の話題になってた・・・。だってアナタは優等生の
見本のような人ですものね。きっと俺の頼みを聞いてくれると思ったの。
エゴイスティックな他の人たちとは大違い・・・・・・」
なにかが狂ってるような気がしました。それでも私は、その鹿の
いう通りに、既出レスを書き込み(当時はまだ匿名の掲示板でした)、
鹿のいう通りに、スレを回したのです。

鹿は、掲示板の向こうの誰かと既出レスを繰り返して回しては、時々こちらを見て、
にっこりと笑いました。そのやり取りが終り、鹿が去った直後でした。私が、
途方も無くおそろしいものに取り憑かれていた事に気付いたのは。

理由を詳しく説明する事はできません。私の
つまらない文章の意味を理解した者だけが、とり
かれる。そ
れが、このループスレの呪いの
ルールなのですから。