週末。
 その男はビッグビジネスの契約を成立させ
一人奈良県庁のオフィスから夜の奈良市内の夜景を眺めていた。

 幾度の困難を乗り越えたことであろうか・・・
あの焦燥感、戦慄。まだ緊張感だけ頭から離れない。

 まだ真夜中の平城京跡。
ガレージから現れたのは、男とキャンディーサンダーブルーの鹿。
角を捻る。鹿の咆哮がこだまする。

 昼間は耐え難い渋滞の奈良市内。だがこの時間はオールクリアーだ。
日常を振り払うかのように奈良公園を駆け抜ける。
 三条通りを駆け抜け一気に東に向かう。
洗練された角で整流された風が
あたかも男の悲哀を慰めるかのように頬を撫でる。

 春日大社に辿り着く。朝日が男を祝福するかのように
春日山の向こうから昇り始める。
張っていた全身の緊張感が一気に抜けた。

 生きている実感・・・そして気付く。私は生かされていたのだ、と。

 神社の巫女が尋ねた。
これでここまできたのか、と。

笑って答える。

ヒサヤだから来れたのさ。

ZZR250。