「ごめんなさい。部屋に落ちていたのを拾ったの。でも、何だか尋ねてはいけないような気がしてきて、ずっとだまってた。」
彼女は台所に行き、そばにあったコップに水を注ぐ。そしてパックを破り、取り出した薬を飲むと、コップの水を一気に飲み干した。
「そう、私は今でもこのお薬を、毎食後に欠かさず飲んでいます。おかげでだいぶ良くなって来てる反面、これからもずっと続くのかなって。そこにある手帳を開いてみて下さい。」
緑色のカバーの掛かった「保健福祉手帳」を開く。私は言葉に詰まってしまった。
「この事を知ってるのは、家族と上司と同期と・・・彼。」
「そして、私。」頷く彼女。
「とくダネにレギュラーが決まって、張り切って取材やプレゼンやって、自分のペースが掴みかけてた時でした。少しずつ、次第にやる気を失い、ついには家から出られなくなりました。」
淡々と話す彼女。涙が乾き、化粧が取れて初めて彼女の素顔を見た。いつもよりも凛とした表情だった。
「熊本地震の取材後だったから、その衝撃かと思ってた。スタッフからも「これでショック受けて会社に行けないのなら、何もやれないぞ。」とも言われました。でも、どうしようもなく、ただただ辛い日々でした。」
私は苦しむ彼女をただ推し量るしか術がなく、何も言えず黙っていた。
「もう、フジも、アナウンサーも辞めるしかない。そこまで考えてた時に、大学時代の仲間たちが連絡し合い、私のために動いてくれました。
ある人はアナウンス室の上司に掛け合ってくれ、ある人は毎日のように家に顔出してくれ、そして今のお医者さんを紹介してくれたのが、彼でした。」
彼女は手帳と薬のパックとごみをハンドバッグにしまい込んだ。
「るりさん、うつ病って脳の病気だって知ってました?脳内物質の分泌が大きく乱れる為に引き起こされるんです。きっかけがある場合もあるんですが、私はそうではなく、今も不明です。」
科学番組の司会やってたのに、そんなメンタルな部分のこと、全く知らなかった。ただ心が弱いからなってしまうとしか思ってなかった。
「この手帳が交付され、その現実を受け入れられずにいた時、彼は懸命に励ましてくれました。何があってもあなたらしく生きようって。アナ室の同期に告白するときも、彼がセッティングしてくれて・・・。」
また、涙が溢れてきた。そんな事情を汲み取れずに、ただ思いの丈をぶちまけた自分が恥ずかしくなった。
「ごめんなさいね。私、プレミアの収録の度に、あなたの視線を、好意を超えた視線を感じてました。」彼女もまた、涙が頬に伝う。
「いつか、あなたのその視線にあったものを確認しなければ。そう思っていました。」心なしか、いつもより高ぶる声。
「以前、私と勝負服の話をしましたよね。それがこの服です。もちろん、勝負下着も、履いてきました。」そう言うと、彼女は椅子から立ち上がり、背中のファスナーを下げた。バサッとワンピースが床に落ちた。
「に、新美さん。」私は勝負服を脱ぎ捨て、乳白色の勝負下着の姿の彼女を見つめた。