きっと、ゆりはこういうことも完璧にこなしてしまうんだろうな…。
ももかはそう思って心の中を全力で「受け」モードに入れた。
しかし、その後に起こったのはあまりにも予想外のできことだった。
ゆりは部屋のドアを閉めるなりその場に座り込んでしまい、やがて眼鏡を外しながら片腕を目に当て、眼鏡をサイドテーブルに置くとベッドに伏して泣き始めた。
「ちょっと、ゆり? どうしたの?」
心配して声をかけても、ゆりはますます大声で泣くばかりで返事は返ってこない。
理由はわからない…けど、いまは落ち着くまで待つしかなさそう。
ももかはそう考え、ベッドに座るとゆりの頭を自分の膝の上に移させ、そしてゆっくりと優しく、愛情深く髪を撫でた。
ゆりがここまで大泣きする理由はいまはわからない。
だけど、ゆりが理由もなく泣くはずなんてない。
理由を話していいと思ってもらえるまで、いまはこうしていよう。
何なら朝まで泣いていても構わない。
どれほどの時間が流れたのだろうか。
ゆりはまだ嗚咽していたし、目は赤く、そしてしゃくり上げていた。
それでも、いくらか話をすることぐらいはできる程度には落ち着いていた。
改めて、ももかはゆりに優しく尋ねた。
「どうしたの?」
その答えは意外なものだった。
「怖かった…」
「怖かったって、なにが?」
「自分が強くなきゃいけないんだ、って、ずっと思ってて…私が負けてしまうと、いろんな人に迷惑をかけることになるし、それで…」
そうか…私と同じなんだ…
ももかはそう考えた。
カリスマモデルと呼ばれていたころ、本当はずっと友達がたくさん欲しかった。だけど「ファン」はたくさんいても「友達」はゆりしかいなかった。
友達を作るのなんて、簡単だった。
カリスマモデルという名前を捨てて、馬鹿なことをやれば良かったんだから。
だけどそれをやると「カリスマモデルももか」を必要としてくれている人たちに迷惑がかかる。
私にはそんなことはできなかった。
それに何より、馬鹿なことをやって「カリスマモデル」と見做してもらえなくなることを、私が一番恐れていたことも自覚してる。
ゆりは昔のことをあまり話してくれたことはないけど、多分つらいこともたくさんあったんだろうな。
冷たく重い鎧の中で、必死に何かをこらえて、心を凍てつかせて、泣きたいこともたくさんあって…
多分、私の「カリスマモデル」という殻より、持ちこたえるためには決意と覚悟をはるかにたくさん必要としたんだろうな。
「ねえ、ゆり…もしかして、私が誘いをかけたことに対しても、強くいなきゃっていう使命感で応じてくれたの?」
「そうよ。駅前で自分が考えるより先に体が動いてしまったときなんか、本当はその場に崩れ落ちてしまいたかったんだから…」
「そうか…ねえ、ゆり、ごめんね…」
そう口にすると、ももかは「殻」の中にずっと居続けていたことに対して自分も泣きたい感情がわき上がってきたことを感じた。
ゆりの何十分の一、何百分の一かも知れない。
でも、ここで泣いて、そして「カリスマモデルももか」の物語は終わりにしよう。