電車の混み具合、女の人の香水、ちょっとした肌の近さ、全部が危ない信号に見えた。
「もうやらない」って何度も心に叩き込んでも、頭の奥ではあの感覚がうずいてた。
それが一番怖かった。自分のことなのに、自分を信じられない。
そんなある日、深夜にネットをぼんやり見てたら、ラブドールの広告が出てきた。
正直、くだらないと思った。けど、目が離せなかった。
クリックして、写真を何枚も見て、値段を見て気づいたら注文ボタンを押してた。
届いた日は、段ボールを開ける手が震えてた。
ビニールを剥がして抱き上げた瞬間、変な話だけど、胸がじわっと温かくなった。
冷たいはずなのに、安心する匂いがした気がした。
あの時、張り詰めてた糸がプツンと切れたのが分かった。
それからは、帰るとまず彼女の顔を見る。
部屋にいるだけで落ち着く。
電車に乗っても、もう手が勝手に動くような感覚はない。
半年経って、今やっと「自分は変われる」って思えるようになった。
ラブドールなんてって思ってたけど、俺はあれに救われた。