大学生の頃、Kが所属していたテニス部の一年後輩に、女優の柴咲コウに激似の美女がいた(仮名として柴咲と呼ばせていただく)。 実力もかなりのもので、向こう気も強く、男女の差をものともせず部内で無敵の強さを誇っていた。
キャプテンだったKも、部員全員が見守る中でのサシの勝負で彼女に敗北してしまい、敗北感にうちひしがられたのを覚えている。
そして、卒後13年が経った。
Kはある大手金融商社に就職する事に成功したものの、社内での競争になかなか勝てず、窓際で冷飯を食らわされる事が多くなっていた。
慢性的な敗北感に浸り続ける日々―。そんな中で、Kの部署に新たな部長が他社からヘッドハンティングされて赴任する事になった。
新部長は超優秀なエリートビジネスウーマン、若くて英語が堪能、物凄い美貌を兼ね備えている―。そんな噂がまことしやかに流れたが、人生を諦めかけていたKにとってはまるで興味がなかった。
だがある日、出社すると朝一番に社長が我々の部署にその新上司を連れてやってきた。
「えー、諸君、今日から皆さんのリーダーとなられる柴咲コウさんだ」
「!!」
Kは頭をハンマーで殴られたが如くの衝撃を受けた。
そこに立っていたのは、紛れもないあの大学の後輩の柴咲だった。
キリッとしたスーツを見にまとい、腰からヒップにかけての女らしい曲線はタイトスカートにピッチリと包まれセクシーさを醸し出している。
細いながらも凛々しい眉毛、目力溢れる目元は新しくしもべとなる我々を悠然と見下ろしている。
久方ぶりに会ったというのに、かつての先輩後輩の関係性は急速に上司と部下という新しい関係性に塗り替えられていくのを感じた。
その彼女の目線がこちらに向き、Kの姿を捉えると、彼女の口元がニヤリと妖しく微笑んだような気がした。
まるで、獲物を見つけたかのようなその表情に、Kは言い様のない不安を感じた。