その2

週末、早速に柴咲部長の歓迎会がとあるホテルのレストランで開かれた。
主賓席で悠然とワイングラスを傾ける彼女を、Kは末席で顔を伏せながらチラチラと見やる。
まさか…柴咲が自分の上司になるなんて…。
だが思い返せば、大学時代から彼女のハイスペックさはあらゆる領域において発揮されていた。
社交性、知性、品格、美貌はもちろん、類まれな運動能力でまさに文武両道、才色兼備を体現する存在であった。
もちろんテニスにおいても、キャプテンであるはずのKを常にねじ伏せ、圧倒的存在感でもって部内で人心を掌握していた。
そんな彼女が35歳という若さで大企業の部長職に就くのは当然の事といえたが、かつての後輩の部下になるという現実はKのプライドをキリキリと締め付け、なんとも言えぬ悔しさ、屈辱感を味わわされた。
ふと見ると、彼女がニヤニヤとほくそ笑みながら手招きし、彼女のとなりの空席のソファスペースをポンポンと手で叩いている。
どうやら、隣に座れということらしい。
Kは少し不安を感じながらも、彼女に酌をするためのワインのボトルを手に、彼女のもとに向かった。
「お久しぶりですね、Kさん。お元気でしたか?」
「あ、え、ええ…まぁ」ぎこちない敬語で返答するK。
「アッハハ、どうしたんですか?敬語なんか使っちゃって…あ、そうか。これからは私がKさんを使う側ですもんね。じゃあ、改めまして、よろしく」
「よ、宜しくお願いします」
「顔なじみだし、Kさんには私が立ち上げる新プロジェクトで、私の補佐をしてもらおうかと思うの。Kさんの仕事っぷりもチェックさせてもらうわ。一緒に頑張りましょうね」
「は、はい!」
かつて先輩だった面影はなく、エリートビジネスウーマンとして放たれる彼女のオーラにKはすっかり呑まれ、完全に下僕として振る舞わざるを得なかった。