雅美はたちあがり、Kの臀部側に回りこんだ。綾はそのまま、身体をKの上半身にピッタリと刷り寄せる。
いきなり綾は左腕をKの首に巻き付け、両脚をこれまたKの脇腹に巻き付ける。
プロレスでいうところの、いわゆる胴締めフロントネックロックの体勢である。
Kはさながら死刑執行直前の罪人のようであった。先程の安堵から一転、何をされるのだろうという不安が心を支配しはじめていた。
「じゃ…覚悟はいい?いくわよ!」
そのまま、Kの首と胴を万力のように締め上げる。
「ぐぅ〜〜〜!クッ!グゥ!」
頸動脈は綾の上腕と胸によりサンドイッチされ、気管もろとも押し潰される。
顔面はうっ滞した血液で真っ赤なトマトのようにパンパンに膨れあがり、声を発することもままならなかった。
同時に綾の滑らかな女らしい肌と女らしからぬ筋肉を併せ持つ太ももが、Kの胴を両サイドから挟み込み締め上げる。
胸郭は圧迫され、肋骨はミシミシと音を立てる。息を吐いたが最後、太ももの締め上げが再度の吸気を許さない。
全身をがんじ絡めに捕獲され、最初は脚をバタつかせて逃げようともがいていたKも、急速に酸欠に追い込まれ、意識が朦朧としていった。
ああ…死ぬ、シヌ!逝っちゃう!
声にならない悲鳴を脳裏にあげながら、瀕死の状態でビクビクと身体が痙攣を起こしていた。死を予感したところで綾はKを地獄から解放した。
「ガァハッ!ハァ、ハァ、ブァァ〜!」
悲惨な喘鳴を上げ、必死に酸素を掻き込むK。しかし綾の腕と脚は力を弛めただけで、いまだ蛇のようにKの身体に絡みついて離さない。
「まだ1セットだけなのにこんなにハァハァいっちゃって…だらしないわね。こんな風に身体を極限まで酸欠に追い込まないと心肺機能って鍛えられないの。
これからオリンピックまで、毎日の基本メニューに組み込んであるから頑張りましょうね」
ま、毎日!?Kの脳は絶望と戦慄で一気に塗り替えられたが、今、脳は酸素を欲することしか考えられない。