「さっきの乗り物すごかったー!もっかい乗ろうよ」
「いいよ。すっかり緊張もほぐれたみたいやね」ニシシ
「もう、恥ずかしいからさっきのこと言うのはナシだよ!」

えるちゃんは満面の笑顔。本気で楽しんでるみたいだ。一緒に来れて良かったと心の底から思う。
まあ私がすっぽかす寸前だったんだけど。

「だいぶ歩いたねぇ、えるちゃん。わたしゃちょっと喉が渇いてきたねぇ」
「おばあちゃん、疲れたのかい?」
「ちょびっとだけねぇ」
「それなら、える美味しい飲み物知ってるよ〜」
「バッグの中にあるんかーい」
「朝まで凍らせてたから冷たいよ!はい、エルフ特性ドリンク」

「……色はまともだ…少し濁ってる」
「あー、でろーんちゃん疑ってる?せっかくえるが端正込めて作ったのに」
「いやいやそうじゃないけど、前にチャットで画像送ってもらったのとかあるからさ」
「木の実のオードブル?」
「そう、皮ごとの木の実そのもの」
「大丈夫だよ〜ちゃんと人間向けに味付けしてあるんだから!こんなサービス滅多にないんだからね」
「それ、何かのアニメだったっけ…」ゴクリ

「あっ…美味しい!」
「でしょ!これはね〜野生のカエデで作ったメープルドリンクなんだよ」
「へー…すごい、少しクセがあるけど柔らかい甘さだね」ゴクゴク
「味を整えるため、果実の絞り汁と木の実の粉末、あとは愛情をひとつまみ加えて一晩寝かしたのがこちら」
「料理番組かい!ふー…ごちそうさま、なんだか体が熱くなってきた気がするわ」
「あー…栄養価、が、たっぷり入ってるからね!疲れも取れて傷の治りも速くなるんだよー」
「意外にすっごいなエルフの技術って」
「まあ伊達に長く生きてないかなー、やっぱ」

楽しかった時間もあっという間。でろーんちゃんと離れなければいけない時間になった。
「えるちゃん元気出して、またすぐに会えるよ」
そう言って微笑んでくれたから、えるも笑ってシンカンセンに乗ることができた。

訳のわからない早さで走る電車の中。でろーんちゃんのことを思い出す。
えるを森から外に連れ出してくれた。こんなに世界が広いことを教えてくれた。
怖がりのえるに友達を作らせてくれた。今まで知らなかった気持ちを自覚した。

ああ。大好き。誰よりも。森の皆よりも。家族よりも。でろーんちゃん。
だから。ごめんなさい。えるはあなたに嘘をつきました。
でろーんちゃんにあげたドリンク。愛情をひとつまみ入れたの。入れてしまったの。

―――えるの、血。

昔にエルフが狙われ捕らえられた理由。今日の分だけで、彼女は元々より20年は長く生きられるだろう。
あの子と添い遂げたとしても、最後には一緒にいてほしい。えるはそう願ってしまった。
それに、あの子だって好き。友達になりたいし辛い目に遭わせたくない。
えるはいつも兎すら狩ることができないの。だから、生きてもらって一緒に過ごすことを選ぶの。

えるは悪い子です。ごめんなさい、村の皆。おばあちゃん。
ばれてしまったら、メリーゴーランドでお仕置きされる。村を追放されるかもしれない。
――言ったろ、たぶらかしたのは私だから私のせいにすればいい――
えるの中のダークエルフちゃんが言う。でも、えるだって悪い子だからもう後戻りはできないよ。

でろーんちゃんが知った時、どう思われるだろう。怒られるかもしれない。嫌われるかもしれない。
でも、える知らないよ。でろーんちゃんをどうすれば振り向かせられるか。
でろーんちゃん。樋口楓さん。ごめんね。ごめんなさい。えるが全部悪いの。

滲む視界で、綺麗な夜景を見ながら思う。今日がいままでで一番幸せ。でも一番悲しいな。