先程までの喧騒が嘘のようだ。

人と、歓声と、熱気に満ちあふれていた会場は既に片付けも終わり、照明も切られていた。
非常灯が照らす薄暗いステージに彼は一人立っていた。

周りを見渡せば、色とりどりの光が目の奥に写り、誰とも分からぬ声が耳の奥にこだまする。

大きく息を吸い、すこしの間止める。そうしてからゆっくりと吐けば、胸の奥からいろいろなものがこみ上がって来る。それが目から溢れ出ないように、もう一度長く息を吐いた。

思えばずいぶん遠いところまで来たものだ。誰がこんなふうになれると予想しただろう。胸の奥に渦巻く何かを言葉にしようとして、だけどできずに、口から出てきたのは吐息だけだった。

ふと、自分の後ろに誰かが居るのを感じた。こつこつと地面を靴が叩く音が近づいて来る。
誰だろうかと振り向く前に頭をわしゃわしゃと弄られた。
わ、わ、と目を白黒させてる間に、少女が自分の横を通り過ぎていく。すれ違いざまにこちらを振り向いて、にっと笑った。

目をぱちくりとさせていると今度は腕を取られた。驚いてそちらを見るとやはり少女が笑いかけてきた。そして自分の前へと向かっていく。

頭をぺちぺちとはたかれた。背中を撫でられた。手を握られた。服の裾を引っ張られた。肩に手を置かれた。ほおをむにゅと挟まれた。背中に額を当てられた。手を握られブンブンと振られた。胸を握りこぶしでトンと叩かれた。自分の目と鼻の先に立たれ深々と頭を下げられた。

そうして、少女達はみんな、みんな笑って歩いていく。

呆気に取られてその背中を見ていると、バシンと自分の背中をはたかれた。その衝撃に思わず情けない声を上げると、すっかり耳に馴染んだ笑い声が聞こえてくる。

背中をはたいた少女は楽しそうに自分の前に回り込む。
彼女の背後では先に行った少女達が外へと続く扉を開けて待っていた。外の明るい光が照明を落とした会場に入ってきている。

白い少女はもう一度笑うと手をさしのべてきた。
その姿に、なぜだろう、なぜだか目をぐいとぬぐった。
そんな自分にほら、と少女は手をのばす。

「ほら、いくよ」
「……そうっすね」

返事は上手くできたかわからない。ただ、しっかりと手を取った。

そうして彼は少女達と一緒にゆっくりと歩いていき、薄暗い部屋から出て行ったのだった。