「やっぱり学園長なんて偉そうな立場より、アイドル部のプロデューサーみたいな立場の方が話しかけやすんでしょうねーはいはい」
そう、アイドル部のプロデューサーを担当するようになってから以前と比べて気軽に相談してくれる生徒が一気に増えたのである。ばあちゃるとしてはそれがとても嬉しくて、最近は毎日の決まった仕事以外は出来るだけ部室でするようになってきた。
無論、嬉しい事はそれだけではない。
『♪~』
「おや?」
部室の前まで来たばあちゃるが扉に手をかけると、中から歌声が聞こえてくる。小さいながらも力のこもった、あずきちこと木曽あずきの声だった。
「って事は、中にはあずきち一人だけっすかね」
木曽あずきは歌うのが好きだが、あまりそれを人に見せたくはないらしい。アイドル部に入る前は屋上などで歌う事が多かったらしく、今は部室で一人の時に歌うのが一つの日課になってるほどだ。
(これもあの子たちのプロデューサーにならなければ分からなかったんでしょうね)
彼女たちの新しい事実を知ることができる、それをとても嬉しく思いながらばあちゃるは扉を開ける。
「おや、ばあちゃるさんですか」
「はいはいはーいばあちゃるくんですよーあずきちは今日も可愛いですねー!」
「はい、こんにちは」
「他のみんなはまだまだっすかねー」
「はい、あとメンテちゃんから書類が届いてます」
「えぐー!」
他の部員たちが来るまでゆっくり待とうと思っていたが、真の風紀を正す者はそれを許さないらしい。仕方が無いので、ばあちゃるはデスクに座って黙々と書類仕事を続ける事にした。
「......」
「......」
「......」
「......♪~」
続く沈黙の中、木曽あずきはなんとなく鼻歌を歌い始める。そう言えばいつからだったんだろう、二人の時に彼女が鼻歌を歌ってくれるようになったのは。
ばあちゃるはその歌が何なのかは知らなかったが、きっと美しい歌であろう事に間違いは無いと思った。