ほーん……(UTK並みの眼光)
電脳空間の中心街。
そこは様々な男女が待ち合わせを行う“逢引”の聖地でもあった。
一人の美少女が佇んでいる。
首から下げたプラカードには『パパ活中』の文字。
和装に狐耳のうつむき加減の横顔すら麗しい。しかし、声をかける紳士は皆無である。
バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんは、あまりにも有名すぎた。
可愛い。だが、男だ。
ねこますが彼らしくもない醜態を晒しているのは、要は罰ゲームであった。
紆余曲折を経て、こうしている。
夜光に溢れた往来の熱気と、自らの隔絶を思うと、ねこますはため息が漏れる。
「世知辛いのじゃ……」
ばあちゃるがねこますを見つけたのはそんな時であった。
彼らしくもないその風体に事情をそこはかとなく察し、声をかけた。
お久しぶりです、とは言えない。
知り合いが助けたとなると、企画の趣旨に反するだろう。初見のような態度で臨むべきだ。
「いくらっすか?」
ねこますはキョトンとすると、手のひらを大きく広げた。五本指がピンと立っている。
「五万っすか」
意外とぼったくりおるな、とばあちゃるは内心で思った。
「五百円じゃ」
「安っ!」
ともあれ、二人は移動することにした。
ふくやマスターのバーは近場であった。
ばあちゃるはテキーラを、ねこますは緑茶を頼んだ。
三人で乾杯すると、一口目を飲んだねこますが吹いた。
「なんじゃ!? これは」
グラスには緑色の液体。薄暗い店内では緑茶にしか見えない。
「ああ、ごめん。アブサン入れちゃった」
イケメンがイケメンボイスで謝罪すれば、内乱罪以外の罪は許される。
二人がバーを辞した時、ねこますは広い背中に抱き着いていた。
酔いが回り、天地の上下を見失い、ただ目の前の背広に抱き着くしか方がないのである。
「……五百円、じゃ」
さっきの店の勘定も全てばあちゃる持ちである。友人として立つ瀬がないのはわかっている。だが、このくらいの甘えは許されるだろう。
その後、財布には小銭がないと言ったばあちゃるがねこますを自宅に招く。
すっかり酔いつぶれてしまったねこます。
それ見てやさしげに笑むばあちゃる。
男二人、密室。何も起きないはずがなく……(願望)。
真夏の夜の夢はさらに危険な領域へと突入する。
ごめん。たぶんこんなんじゃないですよね。