『美紀の雪行(ゆきぎょう)』
美紀は一人前の巫女になるため、宮司夫妻のもと、修行の日々をおくっている。
雪行を始める時期が来た。美紀にとって初めての雪行。雪行の指導役は宮司の妻。ふだんは優しい奥様だが、修行の場では美紀をきびしく鍛えている。
朝の日課を終えた美紀は、白い道着と袴を身に着け、正座して道場で待つ。奥様が来た。藍染の道着と袴。杖術の稽古用木杖を持っている。
「今日から一週間、雪行を始めます。しっかり励みなさい」
「はい。美紀をきびしくご指導ください」
「道着と袴を脱ぐ。後ろ小手」
美紀は締め込みだけの裸になり、手を背中に回し、手首を重ねる。
奥様が手ぬぐいを使って両手首を縛る。道場を出て裏庭へ回る。美紀は裸足のまま。奥様も素足だが草鞋を履く。
「真ん中に立って、練磨の祝詞を唱えなさい」
美紀は長い祝詞を唱え始めるが、やがて寒さにこわばり声が途切れがちになる。「やり直し」。奥様は杖で美紀を打つ。美紀は最初から唱え始める。
奥様の表情はきびしい。何度目かでようやく許しが出た。
「ひざまづいて顔は正面のまま、雪の上に投地」
一瞬のためらいの後、美紀は積もった雪の上にうつぶせになった。顔が雪に埋もれ、呼吸が苦しい。
「そのままの姿勢で、六根清浄の祝詞」
雪に埋もれ、くぐもった声で美紀は祝詞を唱える。声が細くなると奥様が杖で美紀の背中や尻を木杖で突く。なんとか唱え終える。
「立つ」奥様がきびしい声で言う。
美紀は身をひるがえし、ふらつきながら立ち上がった。体の感覚がない。
奥様は木杖で美紀の乳房と腹、背中と尻、太ももの表裏を十回ずつ打った。
「今日の雪行はここまで。明日からは雪に体がなれてくるから」
「ご指導ありがとうございます」
「母屋でお風呂に入りなさい。熱いお湯を沸かしてあります」
奥様は優しい顔になっている。美紀の顔は涙でぬれていた。