体を襲う冷たさで陽子は目を覚ました。気がつくと顔が泥水の水溜りに浸っていた。どうやら水をかけられたようだった。
「いつまで寝てんだよボケが」
竹田の声で起き上がり、周りを見回した。生徒は誰一人としていなかった。校舎の時計を見る。
まだ6時間目の開始から20分しか経っていなかった。
体中の痛みから、どうやら気を失った後もスパイクの標的にされ続けていたようだと分かった。
とりあえず体育館に向かおうとしたところ、竹田に制止された。
「途中で寝たお前は特別メニューだ」

「お前はボールを怖がるから駄目なんだ。ボールになれる特訓をしろ」
陽子は鉄棒に吊るされ、足が宙を浮いた状態で万歳させられた。
そして竹田は体育倉庫から持ってきた、バレー部の特訓用の自動投擲機をセットした。しかも出力は最大だった。
ボンッ!! という何かが爆発したかのような凄い音とともにバレーボールが撃ち出される。
そしてそれは宙吊りの陽子を直撃した。陽子は思わず水を吐きそうになった。
「オラオラ! まだ始まったばっかだぞ」
竹田は容赦なくバレーボールを撃ち出し続ける。陽子は全身の筋肉を緊張させて
ひたすらこの激痛の嵐が止むのを祈り続けた。

「先生、大変です! ぶつかって怪我した子がでてます!」
この嵐を止めたのは、クラスメイトの一声だった。竹田はチッと舌打ちをすると、陽子を放置して体育館の方に向かった。
陽子はホッとため息をついた。しかしかえって何もされないまま吊るされるのは、惨めな思いを強くさせた。
陽子は冷たい風に吹かれながら、紐が解かれるのをひたすら待った。しかし竹田は一向に戻ってこなかった。
「早く帰ってきて……」
一人で忘れ去られる孤独感と空腹と寒さと手の痛さに、陽子はじっと耐え続けるしかなかった。