ナギ大公率いる軍勢に占領されたヴィントブルーム王国、そしてガルデローベ。
そのガルデローベの五柱の一人であるマイスターオトメ、シズル・ヴィオーラはとある部屋に軟禁されていた。
「失礼します、シズルお姉様!」
そう声を弾ませながら部屋に入ってきたのはかつてこの学園のコーラルオトメであり、今はナギ側に鞍替えしてワルキューレとなったトモエ・マルグリットである。
彼女は頬を赤らめつつもベッドに腰掛けていたシズルの上に屈み込み、その唇に自分のそれを重ねた。
「まあまあ、あんたもだいぶ大胆になりはったなあ」
「ご、ごめんなさいお姉様、つい・・・・」
笑顔を崩さないながらも軽い窘めを含んだシズルの物言いにトモエははっとし、自分の軽はずみな行為を悔やむ。
しかし学園が健在な頃と違って今やシズルは囚われの身であり、自分は強者の側にいるという自覚がトモエのそれ以上の慎みを否んだ。
「あの・・・・そうそう、学園長ですが、残念ながらまだ見つけることは出来ていません。早く保護をして差し上げたいと努力しているんですけど」
「あんたがうちやナツキのために頑張ってくれてるんはよう分かってます。ホントにありがとうな」
シズルは行方不明の女性について芳しくない報告を受けたにもかかわらずその笑顔に曇りを見せず、優しい声でトモエをねぎらう。
若干にしても相手の不興を覚悟していたトモエはそれを聞いて顔を輝かせた。
(お姉さまは学園長のことをあまり気にしなくなった・・・・・! きっと、わたしが心を込めてお世話差し上げているからだわ!)
全オトメの憧れ、輝けるマイスターオトメであるシズルの心が自分に傾き始めている、そう思うとこの冷酷な少女の胸にも温かいものが溢れてくる。
この機会を与えてくれた事変とその首謀者であるナギに、トモエはどんなに感謝してもし足りないほどであった。