>>888
ちょっと書いてみた
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「たのしーいー、ぼくらーの、ななしー、ほいくえんー♪」
 オルガンの最後の音をぽんと短く叩いて、私は年長組のみんなの方に向き直りました。
「はーい、みんな大きな声で上手に歌えましたね。すごくよかったよ」
「先生! みぃみちゃんが、また歌ってなかったー!」
 曲が終わるのを待っていたように、明彦くんが私にそう訴えます。
「あらまあ、またなの? 困ったわねえ」
 明彦くんの隣にうつむいて立っている大きな女の子を見ながら、私はため息をつきました。
 苺ちゃんと海香ちゃんが、彼女の服のすそをひっぱりながら声をかけています。
「ねえ、みんな歌ってるよ? みぃみちゃんも歌おうよ」
「あかちゃんだから、まだむずかしいのかなぁ」
 20歳以上も年下のおともだちに心配されても、みぃみちゃんは聞き分けのない妹みたいに、むくれ顔で立っているだけでした。

 歳はずっと上、体だって一人だけ大きいのに、なぜか他の子に囲まれるとみいみちゃんが一番幼く見えてしまいます。それは服装のせいかもしれません。
 ここの園児服、シックな色の4つボタンブレザーとチェック柄の膝丈ズボンを身に着けると、どの子もぐっと大人びて見えるのです。
 でもみぃみちゃんだけは、浅い水色のかぶりのスモックに大きな丸襟シャツ、ピンクのスカートという格好で通園しています。その服のどれもが、
幅は体に合っているのに丈は園児用と同じ長さしかないので、上はおへそが覗いてしまい、下は可愛いプリント柄のパンツが丸出しなのです。
 みぃみちゃんの転入のときに、サイズの合う指定園児服を特注するとお金がかかるため、おうちで用意した服を着てもよいと取り決めたのだそうです。

 彼女には「み」で始まる本当の名前があるのですが、きちんとした名前は全然似合わないので、保育園では誰もが「みぃみちゃん」と呼びます。
 実咲ちゃんも美季葉ちゃんも稔くんも本名で、彼女だけが「みぃみちゃん」です。仲の良い子の間で、明彦くんが「あっくん」と呼ばれたりはしても、
「みぃみちゃん」の呼び名には、そういうのとはまったく違う親しみがこもっているのです。