俊一は必死で目を見開いて、智子の靴の軌道を読んで蹴られる場所を予想しようと
していたが、俊一が何処に力を加えていて何処に隙があるのかなんて、
上から見下ろす智子からはすべて丸分かりだった。
智子は俊一の心の準備を嘲笑うかのように、蹴りの軌道を変えたり寸止めしたりして
反応を楽しんでから、おもむろに他の場所を蹴りこんだり、
フェイントを使って全く無防備な箇所を作ってから、そこを思いっきり蹴り飛ばしたりして、
このゲームを楽しんでいた。

俊一の顔は今や見るも無残なものだった。
両のまぶたは腫れ上がり、鼻はつぶれ頬には無数の痣と擦り傷・額から頭部にかけては
こぶだらけだった。
もう俊一は目を開けていることも辛かった。
智子の狡賢さと、目にも止まらぬブーツのスピードの前では、俊一の鈍い動体視力など
全くの無意味なのだ。
それどころか黒いロング・ブーツの映像が、俊一の恐怖感を倍増させるだけだった。
一瞬黒い影が視界を掠め、次の瞬間、顔の皮膚の思いもよらぬ場所から火の出るような
激痛が走る、そしてブーツが消える。
この繰り返しに俊一はもう耐えられなかった。