「ほら、グズグズしない!」
智子がリードを拾いあげて、叱責とともに思いっきり短く引っ張った。
「ぐっ!」
一瞬視界が暗転するような衝撃を受けて呻き声をあげた俊一の頭へ、智子は
脚をあげて靴底を乗せ、そのまま床へ着地させた。
菜穂は驕慢な笑みを浮かべながら、両手を腰にあてがって足元の哀れな小男
を睥睨した。蛙のような姿勢で土下座して額を床に擦り付け、「お許し
下さい、どうかお許しを・・・」と消え入るような声で哀願する俊一。
その姿は、彼女が教育係として俊一を厳しく仕込んでいた当時の、見慣れた
光景を思い出させた。

菜穂はかつて俊一の教育係だった頃、靴磨きについては特に厳しく躾けるのが
常であった。靴磨きの際の挨拶の声が小さい、ツヤの出が悪い、磨くのが遅い
、心がこもっていない――少しでも気に入らないことがあると、容赦なく
平手打ちにし、蹴り飛ばした。もちろん、気に入るかどうかはすべて彼女の
気分次第であり、有里や美紀と一緒になってにストレス解消用のサンド
バッグとして扱うことも多かった。

「菜穂様、どうぞご確認くださいませ」
靴磨きを終え、土下座しての最敬礼の後、俊一は恐怖に震えながらそう
言わされる。勿論、言うように菜穂が仕込んだのだ。
菜穂は靴磨き奴隷を一瞥し、その頭にブーツを載せたり、三面鏡を捧げ
持たせたりして磨き具合をチェックするのだった。