そしてその時がきた、集中していた僕にとって耳栓など意味はなく、ミチッミチッと何かがこじ開けられる音、そしてすぐに、鼻先にツンと便臭がこびりつき、舌にぬるっと溶けたチョコのような感触。
しかし、味はとてもチョコとはいえないもの。ついに僕の口の中に、母の物が入る、待ち焦がれた。僕の髪の毛をぎゅっと母がつかんでいる、間違いなく母だ、僕は口にあるそれの中から、母の残り香を懸命に探す。
「あっ………んっ………」
色気ある声がした。それを皮切りに、ぼとっぼとっと僕の口に入る、唾液が通用しない、飲み込もうとしても身体が黄色信号をだして喉奥に入らないのだ、嗚咽してしまう、それでも大量に口の中に、それはあり、暴力的な味と臭いで暴れまわっている。
母は、そんな僕をみて無邪気に可愛い笑顔で笑っている。そんな笑顔を見ていると、絶対に吐いてやるものかと思えるから不思議だ。ただ母にはそんな僕の思いは伝わってはいないのだろうな、と妙に優しい表情をみて思った。
唐突に
 
「少しずつでいいから、ゆっくり噛んで」

いつのまにか母の手は、僕の頭を撫でていた。懐かしい温もり。小さい頃、こうやって撫でられたからかな

「ゆっくり噛んで、味わって食べてね。喉つまらなさないようにね。水流してあげる」

久しぶりに優しい声を聞いた。僕は、母の言うことを聞き、水で流し込み、嫌がる身体を無理矢理押さえ付けるようにソレを咀嚼した。

「いっぱい食べてね、昨日は確かお昼が肉じゃが夜がハンバーグだったかなぁ、美味しい?」