(前略)

満州医科大学に勤務する精鋭の医者達とは多少付き合いもあったが、
彼等の話にはしきりに「マルタ」「マルタ」という単語が混じるので
そのような名が果たしてロシア女にあったかといぶかしんでいた。
気になるため自分は医科研究室を視察の折、幾つかの書類に眼を通してみた。

施設全体には獣脂の如き嫌な臭いが漂い、鬱々たる思いであった。
不快感が好奇心を圧倒し、もうそこを去ろうかと…しかしあったのだ。
自分は電流に打たれたようになった。謎は解けた。

「午后二時、第四施術室ニテ丸太427號ノ陰茎切除。執刀医××」

ラードの臭いを嗅ぐとあの瞬間を今でも鮮やかに思い出すのだ。