上級生たちの馴致の具合を見るにつけても、矯正センターが本来の役目を充分に発揮していることは
疑いようもない。もっとも、そもそも検査によって素質があると見込まれた者だけがここに収容されている
のであるから、成果が出るのは当然ともいえるのであるが。目下、センター長である玲子が気にかけて
いるのは、矯正官たちの働きによって立派に矯正されつつある収容者たちの用途が、未だに決まってい
ないことであった。現下の政権は連立与党により成り立つ脆弱なものであり補正予算案が通るのかを巡
って政局となっている有様であるから、矯正終了後の被虐性愛者をどう扱うかといった大きな法案がすぐ
にも審議されそうな見込みは無い。官僚としての玲子の焦慮は日々深まっていたのである。政治家たち
を動かすには、きちんと矯正された収容者が、いかに役立つものであるかということを示すテストケース
が必要と思われた。