誉められるとやりがいがありますね。

>>763のつづき。

は?と男は困惑した。
うっすらと笑みを浮かべた女豹の後ろには磨りガラスの窓があり、風景は見えないものの鉄格子と空の青さは解る。
青みを帯びた灰色と白に塗られた壁、高い天井から下りた蛍光灯が灯す、冷ややかな明るさ。無表情な女性警察官。部屋には淫靡さの欠片もなかった。ただ女豹を除いては。
「…よろしいのですよ?『誤解でした』と帰って頂いても。」女豹が微笑む。
「ここまでの記録は破棄され、貴方はいつもの日常に帰れます。」
そう言って女豹は腕組みを時、上体を支えるように両手を机に置いた。
かなりラフな仕草だったが、お堅い黒の制服と、その下に秘められたしなやかな肉体とのギャップを際立たせる。
が、本人にはその自覚は無いらしかった。
男の心臓がドキドキと脈打ち、自らのシャツのボタンに手を伸ばす。指先が震えた。
「…お気づきかは解りませんが。」と女豹が目で射竦めながら声を掛けた。
「この部屋には幾つかのカメラがありまして。貴方の行動は全て撮影され、録画またはリアルタイムで観察・評価されます。」
男の指が止まる。
「マゾと仮認定するのは私ですが。その後に送られる施設の人たちも、同時に貴方の反応を見ながら、どう調教しようかと観察しているのですよ。」
女豹はそう言って、男が理解しているのかを観察するよう見つめた。
「…つまり、もっと多くの女たちに見られながら恥をかく、てことです。辞めるなら、今のうちですよ。」
男の顔が耳まで真っ赤に染まる。震える指先がボタンを外した。
女豹はふ、と小さなため息をつき、机のバインダーを手に取った。