単調なリズムを刻んで靴音がした。ゆっくりと一歩ずつ礼拝堂に木霊する。一人ずつ数が増える。
カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン
やがて靴音の主が現れた。姿見の向こうから黒い少女たちがやってきてレイを取り囲んだ。
カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン
彼女らは手に手に持った繊細にして強固な黒絹の糸を、一本ずつ、恐ろしく器用なエナメルの指先で、
レイのまつ毛の一本毎に揺り合わせつなぎ、上の瞼は上に、下の瞼は下に、動かなくなるまで引き上げ引き降ろし、
恐ろしく器用なエナメルの指先で、顔面拘束具の黒に繋ぎとめた。
姿見の中から見返す目は、切れ長だった頃の面影は無い。
カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン
現れたときと全く同じ靴音を響かせて姿見に向かって歩く。鏡面に当たっても歩みを緩めず、
向こう側にいるレイの戒めを解き、その奥の暗闇に消えていった。
カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン
レイは充血した瞼の裏側を露出したまま閉じることを禁じられた眼でそれを見送る。
カッツーン カッツーン カッツーン カッツーン カッツーン カッツーン カッツーン
少女たちがいなくなっても靴音は消えない。少しずつ数を増しながらゆっくりとした単調なリズムを刻んで鳴り響く。
そしてその数ゆえに礼拝堂の空気を揺るがす。打ち鳴らされる鐘の中に閉じ込められてしまった様に感じられる。