マゾ少年の目の前に置かれた水いっぱいの洗面器はいつも、唾が浮いてる。
その洗面器に顔を突っ込み、水面に口を着けるマゾ少年。
「うっ、キムチ臭いっっ」
帰省期間の最終日にもニンニクの効いたものを遠慮なく食べるユナの唾は、本当にキムチ臭い。
しかしそれを聞いたIF班の一同は、マゾ少年がとんでもないヘイト人間だと勘違いしてしまう。
但し、約一名を除く。その約一名は、涙こそ湧かないが精いっぱい、半泣きになったフリをしてる。
表情の作り方がわざとらしく、それに気付いたのは自身も鏡で顔芸の練習をする舞依だけだったが、
舞依にそれを口に出す気の強さは無い。
早香でさえマゾ少年に、ありもしない意外な一面を見て、(こんな子だったの…)と幻滅する。
舞依もまた、ユナの泣き真似はともかく、マゾ少年の性格については本当のところが分からない。
陥穽。こうしてユナの毒牙に掛かった備品は少しずつ、班員の女子に嫌われていく。
それは班員一人一人の胸先三寸を綱渡りのようにして生きる備品にとって、
己の肌に食い込む鞭の勢いや鞭の回数が変わる死活問題なのだ。