「ふぅ……ふぅ」
 暑い、更に暑い。汗でもかくんじゃないかと思う程に。
 ネクタイを緩め、ボタンを1つ外す。しかしまだ暑い、いや暑くなっている。
 しかし周りを見た途端、その疑問が一旦別の場所に置かれた。
「おお、きい?」
 正面にいた客が、さっきはぽっちゃり程度だった男が、今では太鼓腹をどんと突き出している。
 肘に感じていた左右の感触は徐々に大きく、まるで迫る壁に挟まれている感じで。
 見れば左右の男たちも正面の男のように、脇腹に大量の脂肪が乗る程の肥満体になっていた。
 まるで女性かと思う胸を太鼓腹の上に乗せ、二重あごにはだらだらと汗が垂れている。
「なっ、何が、起こって。とにかく、出ないと!」
 言葉にすることで私はやっと動けた。と思ったのだが。
 前後左右、文字通り肉の壁があり動くことなど出来ない。手で押しても、体で押しても柔らかい贅肉の感触しかしない。
 どうする、どうする。必死で頭を働かせるがそんな思考が途切れる。
「あ、あつ、暑い……!」
 まるで熱が私に纏わりつくように、中に入ってくるかのように体が熱くなっていく。
 同時に、腹部に強い熱。私は我慢出来ず、スーツの前を開け、ズボンに入れていたシャツを出す。
「わ、私の腹が?」
 腹を見ればそこはぽっこりと出ている。最初ここで見た乗客のように。ならば。