「こ、これを私が着るのですか?」
ビニール袋に入れられていたのは、ピンク色のスモックに、赤スカート。
それに黄色の帽子と名札といった、いわゆる園児が身に着ける類のものだ。
最初は見間違いかと思いビニールを開けてまじまじとみてみたが、やはり間違いがない。
園児のものと違いがあるとすれば、それは美希でも無理をすれば身につけられそうな大人用の
サイズということ。
美紀は困惑した瞳で園長を見つめる。園長はやはり優し気な表情を浮かべていた。
「今日は美紀ちゃんの保育園体験ですから。体験といえど、仲間外れは寂しいでしょう。
ですから、しっかり園児服で皆と一緒に体験をしてもらいます」
そんなバカな。今日は保育園でのトイレトレーニングの見学にきたのであって、園児になりにきた
わけではない。子供の気持ちになる必要があるとは言っても、何も園児服を着る意味はないだろう。
だが、園長は女性特有のにこにことした笑みを浮かべたまま美希の意見を受け入れようとしない。
「本日はトイレトレーニングを体験頂くと言ったはずですよ? それに、お母さまが実際に体験する
ことで美香ちゃんに対して何をすれば良いかも、よくわかるはずです」
美香の事を引き合いにだされ、美希は思わず口を噤んでしまう。今まで自分が仕事にばかり精
をだし、娘に何も出来ていなかったことは重々承知したばかりだ。