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2019/09/07(土) 10:40:30.38ID:+JMVLnqK遥香は食後のお茶を一口飲んで、小さなため息をついた。
母の古くからの知り合いという智子は、祐子たち親子が以前住んでいた高級マンションを、今も維持管理してくれ、頼めば食事まで用意してくれる。
お陰で遥香は時々こうして家族から離れることができた。
気さくな美女で、話も面白い智子を遥香は大好きだった。祐子と遥香、智子の三人で尽きることのないおしゃべりを楽しみながら料理や食事をすることが、中学生の遥香にはとても楽しかったのだ。
でも、彼女はここにいない。
遥香が顔を合わせたくなかった。
「どうして、前の邸宅を手放したの?」
そう訊かれるのが怖い。
「人が殺された場所だから。」とは言えない。
ましてや、「殺したのは母です。」とは。
遥香は父親を知らない。
遥香がまだ幼い頃に、亡くなってしまったという。
幼稚園の頃、友人がその父親の大きな手で抱き上げられ、いとおしそうに頬擦りされるのを見て羨ましかった。
羨ましすぎて、泣き出してしまうほどに。
中学生になっても、男親への憧れを持ち続けていた。
多くのビルのオーナーである母は、社交的でもあって、自宅でよく食事会をやっていた。
出入りする多くの男女…その中でも母と親しげな紳士がいた。
「…この人がお父さんになるかも…。」
くすぐったいような、甘い胸の疼きを抱えながら、遥香はその紳士と距離を徐々に縮めていったのだった。
…もっと私を知って欲しい。そして、本当の親子のように…
そう思った。
…だから、私のお部屋に招待してあげたのに。
思い出すたびに、遥香はギュっと唇を噛み締める。
きっと、「お父さん」に甘えてしまう。その姿を見られるのは恥ずかしい。そう思って、家に人が居ない時に、こっそりとその紳士を招いたのだった。
そして、襲われたのだった。