数日後、遙香は智子の運転で、都心の道を走っていた。
とある巨大なビルの地下駐車場へと入っていく。
車を停め、ドアを開けると、いつの間にやら屈強そうな男二人を引き連れた切れ長の目をした美女が立っていた。全員が黒のスーツを着てて、威風がある。
智子が車からでて立つと女性と男性の一人が丁寧に頭を下げる。もう一人の男性は、遙香の手を煩わせないように気遣ってか助手席のドアを開け、遙香にも丁寧に頭を下げた。
突然のVIP待遇に驚く遙香を尻目に、智子は「今日はプライベートなの。そっとしといて。」と手を振った。
驚きに立ち尽くしそうになる遙香を智子が手招きし、二人は建物へと入っていく。
外の扉からは予想もつかない豪奢なエントランスを抜け、初老の紳士が迎える優雅なエレベーターに乗る。
遙香の目は驚いたままだ。
「ここはなんなの…?」女子高生の素朴な問いに、智子は「慈悲を掛けるところ。」と答えて微笑む。
それを聞いて初老の紳士が智子に深々と礼をする。
それを当然のように受け流す智子に、遙香は驚きを隠せない。
エレベーターの扉が開いた。
紳士がお辞儀に見送られながら、赤い絨毯の敷かれた廊下を歩く。
まるでヨーロッパのお城か何かの中に居るようで、遙香はただひたすらに圧倒されていた。
「こっちよ。」智子が手招きする。
装飾に気を取られ、智子から離れてしまっていた。
二人の女性が守る扉を抜け、暗い部屋へと入っていく。
壁一面がガラスになっていて、そのガラスの向こうの灯りだけが暗い部屋を照らしている。
そのガラスを覗き込み、遙香はハッと息を飲む。拷問部屋に見えた。
「ここは淑女専用のギャラリーのひとつ。男は基本入れない。飼い主が連れてても、ね。向こうからは見えないから安心して良いよ。」
つまり、これは…と女子高生は理解した。巨大で豪華な、調教所。
智子が時計を確認する。「そろそろ始まるはず…ああ、来たね。」
智子の視線を追いかけて、拷問部屋に入ってきた男を見つけ、遙香は息を飲んだ。この国の中枢の一人だった。