巨大なビルである調教所、それは淑女の森の一施設であり、トップクラスの淑女たる祐子や智子には気軽に立ち寄れる場所であり、最高のもてなしを受ける。
もっとも、普通の専業主婦として生活を始めた祐子はあまり立ち寄らなくなってしまい、多くの生け贄たちを失意の底に叩き落とした。だが、そんなことは祐子にとってどうでもいいことだった。
寄る気もなかったけど、家出した我が子を保護してくれてる智子から、ここでお茶しようと言われたら行かないわけにもいかない。
たまたま顔を出したら、それを聞き付けたらしいあの男が、全ての予定をキャンセルして土下座しながらお願いして来た。智子も遅れるというし、心意気に免じて相手をしてあげた。
長いお預けを食らった分、かまってもらえた男の感激はひとしおで、可愛かったと思う。
調教所の見晴らしの良いラウンジでコーヒーを飲みながら、祐子は調教を無意識に反芻する。
一応、彼にも立場はあるだろうから、と見えるところに傷はつけなかったが。私との思い出に、鞭の跡ひとつくらいは入れてあげても良かったかも知れない。
次に来ることはないかもしれないのだから。
「来てくれてありがとう。」
智子の声がした。
そちらに顔を向けた祐子の眉が軽く上がる。何故、よりにもよってここに遙香が?
「智子、あなた…。」我が子の来る場所ではない。祐子は非難の視線を向ける。
てへ。茶目っ気のある仕草で智子は返した。「遙香ちゃんには淑女になる資格がある。そう思わない?」
そうさせないように仕向けたのだが。と祐子は思う。
男に追いかけられて泣いてたような女の子に、男どもの管理は難しいだろう。
竜司を躾たのは確かだが、好きに暴れるのと管理は違う。極端な話、殺すか活かすかの違いがある。
それに。
「…学園に行かせる気?」祐子が聞くと、智子が頷いた。