「校庭のオブジェ」

頭上に洗面器を掲げて校舎の裏庭に立つ、素っ裸のおっさん。

世間の一般人が見れば異様な光景であり異常事態なのだが、
ここの少女たちは何事もなく、廊下をパタパタ歩いたり、
女子どうしで話していたりする。

オブジェ。オブジェという備品。

雨が降り、洗面器が重くなる。おっさんの肌を激しい雨が打ち付ける。
堪らず、おっさんが姿勢を崩した。

その時、センサーのアラームのような音が校舎内の警備員室に鳴り響いた。
「ガコッ！」という雑音が校内放送のスピーカーから一斉に起き、
続いて『備品の不調』という非常事態を告げる若い女子警備員の声が流れる。

少女たちは避難訓練の通りに、否、避難訓練の一環でもあるように整然と行進、
今回も良好なタイムで各教室又は体育館へと集合した。

女子警備員たちは、渡り廊下とか校舎内の昇降口まで駆け付け、待機。
おっさんは懸命に元通りの姿勢を保つが、後の祭りである。
それでもオブジェたらんとするのは、こうしておくと、雨の止んでからが幾分、
マシになるからに他ならない。