(自分と彼女の手が重なっている。ただそれだけの出来事で胸が熱くなった)
(撥ね付けられるかもしれない――)
(そう思ってさえ居たのに、いまでは胸の高鳴りを隠すのに必死になっていた

(それなのに――)

・・・・異動・・・です、か?
(これでもうおしまい。言外に彼女の口から紡がれた言葉に目の前が真っ暗になる)
(せっかくこうして彼女の体温を感じることが出来たのに?)
(混乱して、混乱して、頭と体と心がばらばらになってしまいそうになる)

(嗚呼、僕はこんなにも愛佳さんに翻弄されてしまっている―――)

いや・・・・いやです。
(わずかにかぶりを振り、少し怯えた瞳で――)

オレは、まな・・・・・・・・・課長の、傍にいたい。

(その時そっと、バーテンダーが白いクリーム色のカクテルを置いて立ち去っていった)
(そのカクテルは”レ・スクレ”)
(秘密を意味する、甘い恋のカクテルだった)