このビルの地下2階か…私は初めてだが、亜矢は誰かと来たことがあるのか?
食欲がそんなにないのなら…コース料理は止めておくか。
パスタとピザ、このパエリアが美味そうだな。それにイタリアンサラダ…ワインでも貰うか。
そんなんでいいか?食べたいものがあるなら注文するといい。
(薄暗い照明の中、黒服のウェイターがにこやかに迎え正方形のテーブルへ…)
(椅子を引かれ隣り合うように座ることを勧められ従うように腰をおろして)
(キャンドルの灯りが、ほんのりと頬を染めるように揺らめいていた)
こんな地下だと携帯の電波なんて入らないだろうな。
今夜はゆっくりと亜矢と食事を楽しみたかったし、それに中々洒落た店だ。
パスタって美味いんだが、どうもスプーンを使って食うって苦手だ。
かといって蕎麦とか食うみたいにズルズルすするってわけにもいかないし…
その点ピザってのはいい。手掴みで食うようになってるからね。気取らなくていいってのは助かる。
(形ばかりのテイスティングをしたワインがグラスに注がれ、それを軽く触れさせて)
(大皿に盛られたパスタを互いの皿に取り分け……)
どうした?未だ心配事でも?居ない間、神経を張り詰めてたんだろ?飲んで忘れるといい。
モーゼル地方の赤ワインらしい。ドイツワインっていうと白が定番だが赤ワインもあるんだな。
凄く飲みやすい。飲んだ方がよく眠れるし疲れもとれるだろう。
もし、歩けなくなったら…オンブしてやるから心配するな。
(普段は言わない軽口…それはワインの酔いのせいばかりではなく)
(スーツの内ポケットから気づかれないように取り出した小さな黒い物体)
(それを指先で確かめながら…スイッチを入れて切ってと何度も繰り返して)
(それは亜矢が指示に従っているのかを確かめるため…)
(キャンドルに照らされ、ほんのりと染まった顔を見つめながら)
【大丈夫、しっとり奥様って感じだし。もっと引っ張ろうと思ったけど…ちょっと限界かな】
【ってことでストーカーは啓輔…で、家に帰って拘束かな】