>>736
楓へ

手紙をくれてどうもありがとう、ちゃんとこうして自分の元へあなたのメッセージが届いているよ。
そして元気でいるよ、心配事も少ないよ。
今年になってまで、春に、夕方の時刻に思い出してくれたんだね。
とても不思議で、楓の名前と宛名を見た瞬間の驚きはあって、頭の中で一瞬思考停止したままで何度か読み返しました。
それは自分なんかそれ程の存在じゃないと思ったのと、楓の言うように過ごした時間だけが体に感覚として残ってはいるけれど、記憶がどんどん風化していってることに改めて気づいてしまったからなのかなと思います。

…だって自分で自分の名前を覚えていないから、俺はそのことがとても辛いです。
お花見はちゃんとしたよ、夜の桜のなかにいた楓のことは覚えてる。
一緒にアップルパイを食べたことも、楓の選んだスパイス入りのカフェを飲んだことも忘れてない。

今の自分ならもう少し楓のことを理解できたのかな。
ただ、こうして文で接したとしてもあの時間はずっと失われないことが、素直に俺は嬉しいです。
俺達の時間は決して無駄じゃなかった。でも名前が思い出せないのは、本当だよ…

楓が幸せに過ごしていることを祈るよ、いつまでもそばにいられるよ、過去の楓にそう約束して。またね。

テケトーだけどそうでもない渉より